240.西回風
『ちっ――そういや今は西回風が暴れる季節か』
船長の話に。
思わず眉間に皺が寄る。
「そうだな。こればかりはどうしようもない。諦めて待機するしかないな」
「あの――」
相棒の言葉に、ユニィが反応する。
「さっきから、西回風――ですか? 何だかその風を気にしてるみたいですけど――船が出せなくなるほどなのでしょうか?」
「ん? ――ああそうか。君は王国でも内陸部の出身だったね。それなら知らないのも無理はない。西回風というのはだね、この時期に――」
とりあえず、出航に向けた打ち合わせの為にここに来たんだが――しばらく出航は無理だな。
ああ。
せっかく、あのおっさんから船員付きの船を借りれることになったっつーのになぁ。ついてねぇ。
暇になった俺は、改めて辺りを見回す。
聳え立つかのような大型の帆船。次から次へと出入りを重ねる中型の帆船。
岸壁は船に覆われ、波音に混じり船同士の擦れる音が聞こえてくる。
当然だが、途中の漁村で見たような小型船など見当たらない。
『風如きにビビるなんて、陸の上の連中はヒョロっちいな』
水の中から面倒な奴が顔を出してきた。
そのまま大人しく沈んでてくれても良いんだが。
『――おい。港の外に隠れてろって言っただろ? 見慣れねぇ奴がこんな所に居たら騒ぎになんだろうが』
『ノロマと意見が合うのは気に食わないけど、風については同感ね』
睨みつける俺の後ろから、声が被さる。
――くそっ。面倒くせぇ奴が増えたな。
体を回しながら、思わず舌を打つ。
『お前らもあの真面目ユニィみたいに、俺の相棒の話をちゃんと聞いとけよ。――おい、そんな睨むんじゃねぇよ。――――くそっ。分かった、分かったよ。簡単に教えてやるよ』
放っておいたら、いつまでも睨まれ続けるだろう。
ああ。
こいつらやっぱり――面倒くせぇ。
『――お前ら。西回風は知ってるよな?』
――二竜に聞こえるよう、舌を打つ。
『この世界に沿って、常に西から東へと吹く風の事だ』
返事は期待するだけ無駄だ。
分からなくても構いはしない。
『そいつは常に、この世界の空高くを吹き続けている。お前らは何故とか気にするな。そういうものだ。そして普通は高い所に居るこの西回風は、年に数回。地表へと落ちてくるんだ。お前達も爆弾風とかぐらいなら聞いた事があるだろ? 竜が吹っ飛んだとか、家がバラバラになったとか、村が吹っ飛んで大穴が開いたとか。アレだよアレ』
そこまでを一息で語り。
息を整えて。
『そいつが――この時期はこの辺りから西の海上に落ちるんだよ』
これで流石に――こいつらでも分かるだろう。
今回のように海上に落ちた場合は、海面近くの水がそこに居る生物も含めて吹き飛んでしまう。
その一部は空に舞い上がって、遥か東に降るらしいが――想像したくもないな。
『はいはい。分かったから早く行きましょうよ』
『要は潜っときゃあ良いんだろ。潜っときゃ』
――こいつらいっぺん沈めとくか。




