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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第六章 謎解き騎竜
251/308

239.長命の壺

 術の起動と同時に、巻き戻る記憶。

 俺の視界に浮かんだ記憶は――



「久しぶりに君と語り合えると思ったんだが――「船」の用立てかね。――ふむ。そうだな。対価として新たな――いや待てそのスキルは!?」



 ――いや。これは巻き戻し過ぎたな。


 視界を占めたおっさんの顔。そんな無駄記憶を追い出すように頭を振り――改めて『リコール』を起動する。

 そうだな。一度に巻き戻すのは止めて、今度は近い記憶から順に巻き戻すことにしてみるか。



 視界は暗転し――そしてすぐ。暗闇に光が戻った。


 目の前。最後に視た「死の力を宿す、希少な真竜族の鱗」。


 死属性が司るのは死と停止。

 生命に死を齎し、『力』の循環を止める効果がある。

 この死の力で思考が停止し、昏倒させられたのか?


 ――いや。違う


 死属性の本質は減衰と停止にある。

 この鱗を視た後も気を失うまで、俺の脳は焼き切れそうな痛みを訴えていた。

 死属性が原因であれば俺は徐々に平静になり、そして眠るように昏倒していたことだろう。

 故に――あり得ない。


 その前に視た「レンズの表面に光術の残滓を感じる、1200年ほど前の単眼鏡」。


 光術の残滓――

 確かに光術の種類によっては、視覚を介して情報を取り入れる『インスペクト』への影響は大きい。


 だが。


 その残滓からは初歩の光術。

 光の波長を変化させ、透過した光の色を変換する『プリズム』の術――

 それしか感じられない。

 この程度の術では、到底俺の脳に高負荷を引き起こせなどしないだろう。


 では、その前は――ああ「『力』が(うわぐすり)と共に焼きこめられた、200年前の陶器の壺」か。


 ――この壺は確か貴人――――っ!


 俺は記憶をなぞっただけ。

 ただそれだけにも係わらず、思わず膝をついてしまう程の高い負荷が脳髄に――掛かる。


『――っ。はあっ――はぁっ』


 慌てて術を解除し、溜まった息を吐きだした。

 そのまま新鮮な空気を取り入れながら、壺の特徴を改めて思い出す。


 上部の肩から胴に掛けてが大きく広がり、腰で絞って裾がわずかに広がる。

 この特徴的な形状は確か――貴人族に伝わる伝統的な壺の形状のはずだ。

 長命を司るとか全知を司るとか――眉唾物の話はあるんだが、そもそも貴人族自体が希少種であるため、その真意をはかることは困難だとか。

 ――まぁ、()()()()代物だ。


 だとすると――この壺に込められた『力』が何を齎すのか。

 それを想像することは難しくない。

 貴人族が拘るもの。それは――己の寿命。

 この壺は『力』を生命エネルギーに変換する機能を有しているのだろう。


 そして――だとすれば。

 俺のこの状況も納得できる。

 ()()()()により知覚された『力』に、「生命力」としての指向性が生まれ、それが全身を――特に。最も働いていた脳髄を活性化させたのだ。


 分かってしまえば、どうという事もない。

 それほど面白い物(危険なもの)では無かったな。


 「何か、分かったのか?」


 『いや。やっぱ面白い物ってのは早々ねぇな』


 俺はただ首を横に振り――宝物庫を後にした。


 

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