24.積層された知識
リーフェ達が叫ぶこと三度。
洞窟の中から年老いた脚竜族が現れた。
『なんじゃ? 三竜揃って? ――ん? 見たことない子がおるのぅ』
「は、はじめまして。ユニィといいます」
我に返って、自己紹介したけど――その脚竜族は首を傾げてこちらを見ている。
あれ? また何か失敗しちゃったかな?
『長老は耳がものすごーーーく遠いんだ』
私が戸惑っていると、リーフェが横から教えてくれた。
うん。それは良く分かったけど、先に言ってよリーフェ。
私が心の中で抗議していると、リーフェ達がその脚竜族(長老?)の耳元でまた叫ぶ。
『調べものがあるから、書庫を貸して!』
『見たい本があるの!』
『頼むよ長老』
『む? チョコ? チョコを飲みたいじゃと?』
『チョコじゃないよ! しょ・こ! 僕は甘めで!』
『本が見たいの! ほ・ん!』
『俺はビターで頼むわー』
『わかったわかった。トメさーん! ホットチョコじゃ。ホットが飲みたいんじゃとー!』
流れるような応酬についていけない。
呆然と四竜を見ていると、奥から犬獣人の女性が現れた。この人がトメさんだろうか。
「何度言ったら――って、新しいお客さんじゃないですか。いらっしゃい。――それと、ごめんなさいね。この竜達いつもこの調子で」
トメさんが、ため息を吐く。
私も苦笑いでそれに答えた。
――――――
「はぁー」
温かくて甘いチョコレートに気持ちが落ち着く。
外は暑いけど、この洞窟の中は涼しくて温かいものでも美味しく頂ける。
私達は、あの後結局ホットチョコをご馳走になってしまっていた。
そんな寛いだ空間の中、長老さんが話し始める。
『それで、先程の話じゃが――』
『あっ、ユニィ。書庫はこっちだよ』
『こら、リーフェ。先に行かないでよ』
『長老。書庫借りるわー』
ねぇみんな。長老さんの話は聞かなくて良いの? 何だか悲しげな顔をしてるよ?
私の疑問を余所にみんな奥の方へと入っていく。
――えっと。これどうしよう。
「――ごちそうさまでした!」
私は一礼してリーフェの後を追うことにした。ごめんなさい。長老さん。
――――――
書庫に入るなんて初めてで。
緊張しながら入った書庫の中は――ちょっと不思議な匂いがした。
ふわっと香るこの匂いは、もしかして話に聞く本の匂い?
――そう思ってリーフェに「本の匂いって初めて」って目を輝かせて言ったら、虫除けのお香の匂いだった。
――あぁ。今日は恥ずかしいことばかり。本探しに集中した方が良いみたい。
私達が今探しているのは、800年ほど前の人族の英雄に関する書物。その英雄は何と『時空魔術』が使えたそうだ。どこまで本当かは分からないけど、三竜によると、リーフェと私のスキルは、この『時空魔術』にそっくりとか。
そんな話は私の村では聞いたことがない話だけど、世界は広く歴史は深い。人族の間では失伝した英雄譚なのかもしれない。
『おーい。あったぞ』
マーロウさんの声がする。その手にはどう見ても真新しい本。
――800年前じゃないの? 思わず声に出る。
「その本新しすぎませんか?」
するとリーフェがなぜか得意そうに教えてくれた。
『それは長老のスキル『積層知識』の効果だよ。自分の知識を劣化しない書物として保存できる術があるんだ』
――何か凄い。私は素直に驚いていた。だって、800年前のスキルが未だに生きているってことだもの。
魔物を吹っ飛ばすスキルのことばかり考えていた自分が少し恥ずかしくなる。――やっぱり今日は恥ずかしいことばかり。
『そんなことより、中身を読んでみましょうよ』
『そうだな。使えそうな『キーワード』があれば良いんだがな』
待ちきれなくなった二竜がこちらを急かす。
――魔物を吹っ飛ばせなくても良いから、凄いスキルが身についたら良いな!




