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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第六章 謎解き騎竜
248/308

236.霞んだ記憶

「ありがとうございました、おじいさん。お世話になりました」


 その言葉を最後に儂に背を向け。

 少女は、騎竜と共に去っていく。


 次の行先は西都と言っておったじゃろうか。

 あの辺りは、相棒とも良う駆け回ったもんじゃったが――おお、そうじゃった。

 相棒と言えば――


「のう。お主とも会うのは久しぶりじゃのう」


『あ? 何言ってんだ。耄碌したのか? ハゲじじい』


 ――何と失礼な。

 これはきちんと剃っておるのじゃ。ほら、この辺りとかのう。

 もみあげの下辺りを、さり気なく見せながら続ける。


「おお、嘆かわしい。お主と初めて会った時には、儂と相棒を三(にん)で『じーちゃん。じーちゃん』と呼びながら、ぐるぐると囲んで回っとったんじゃがのう。可愛らしかったんじゃがのう」


 目の前の竜が長い首をゴキゴキと鳴らしながら、こちらを睨んで来た。

 ――本当に、あの時の可愛らしさはどこへ行ったんじゃろうか。


『おい。意味わかんねえこと言ってんじゃねぇよ。俺がいつ『じーちゃん』とか言ったんだ? だいたい、初めて会ったのはそこの洞窟だろうが』


 ――はて?

 記憶が混ざってしもうたんじゃろうか。

 言われてみれば、回っていた子竜(こども)達は地面の上を走っておったかもしれん。


「ふむ――そうじゃったかの? まぁ、それはどちらでも良いんじゃがの。それより、お主地図が読めるのかの?」


 儂の言葉に目の前の竜が眼光を鋭くする。


『――――読めるわけねえだろ』


 そう言うと、その目を少女の消えた道の。その先へと向けた。


『この光の元へ、泳いで追ってこいだとよ』


 ――うーむ。

 そういう竜の視線の先には――何も。

 儂には何も見えんのじゃが、はて。

 何ぞ――あるんじゃろうか。



 ――――――


『うんっ! やっぱり新鮮な魚は味が違うよね!』


 隣で口を動かす、ステュクスのおじさんに同意を求める。


『――――ああ』


 ――うんうん。そうだよねそうだよね。


 いつも厳しいおじさんの肯定的な返答に、思わず頬が緩む。

 そして同時に。

 今日この日の美味しい焼き魚に辿り着くまで。

 苦難の日々が、長く辛い闘いの日々が――僕の脳裏を過る。


 ユニィに銛を送ってもらった後。

 これですぐに魚が突けると思ったんだけど――甘かった。

 地上から水面の魚に向けて思いっきり投げ込むんだけど――銛が水面に到達した瞬間。

 魚は深い所に逃げてしまうのだ。


 そこからは試行錯誤の連続。

 場所を変え。持ち方を変え。投げ方を変え。『ポケット』すらも併用して――1週間。

 重力で加速した銛を、魚の直近で『ポケット』から発射することで――先程ようやく魚を突けたのだ。


 ――うん。

 苦労を思い出せば出すほど――口の中で美味しさが増していく気がする。

 まあ、元々()()()は美味しいけど。


 ――って。あれ?

 そう言えば、この魚って前にも食べたことあったけど――どこで食べたんだっけ?


 思い出そうとしたんだけど――薄靄が掛かったかのように記憶が霞んでいて。


 結局、僕は。

 その記憶を思い出すことは――できなかった。


第3エピソードはここまで。

次話から第4エピソードです。

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