235.問題児
『――で。結局お前は何ができるんだ?』
『お? なんだ? 海竜族一の若手と呼ばれる俺に、そんなに興味があるのか?』
――やっぱこいつ合わねーな。
軽くお互いに名乗った後、何ができるのかを聞いただけなんだが――
いきなりのこれに、げんなりとさせられる。
それでも、辛うじて頷きを返すと。
『当然、泳ぐのが一番早い。もちろん力も強い。水術も――この年にしては上の部類だ。他にもだな――』
自慢気に話す様子に、途中からは聞く気が失せてしまった。
結局、普通の範疇だろ?
自分で振っといてなんだが、早く終わんねえかな。
何の気なしにサギリの方を見ると、凄い形相で睨まれていた。
――まぁ。悪ぃ。
「えーと。トリムさんみたいなそんな凄い竜が、どうして私達を手伝ってくれるんですか?」
今まで黙っていたユニィが口を開いた。
流石は真面目娘だ。
因みに――どうでも良いが、こいつの名前はトリムというらしい。
『そんなもん決まってるだろ?』
――頭の悪そうなセリフだな。その先が予想できそうだ。
『あのな――俺達海竜族も外に出なきゃ駄目なんだ。こんな場所でこそこそ隠れてっから、いつまで経っても絶滅寸前とか言われんだよ』
――ん?
あまりにもの意外な回答に、一瞬硬直する。
これは――評価を上方修正する必要があるかもしれねぇな。それでも普通の範疇だが。
「そうなんですか。種族の事を考えて――とか、凄いんですね」
『だろ? ああ――あのじじいにもその言葉、聞かせてやりてぇな。この話をした途端、竜のこと問題児扱いしやがって』
――やっぱ必要ねぇな。
「話はまとまったかい?」
ここで相棒が口を開く。どうやら俺のうんざりとした感情が伝わったようだ。
俺は軽く頷いておいた。
使えるかどうかは分からないが――こいつはとりあえず確保しておこう。
そのまま。
問題児との細かい話は相棒に任せて、俺はこちらを睨むサギリのフォローに回ることにした。
『まぁ、そんないつまでも睨むなよ。不用意に話を振っちまったのは謝るが』
俺の言葉に、サギリははぁと溜息を吐いた。
そのまま、少し離れた所で待つ案内役のじーさんの方へと歩いていく。
『また――マーロウみたいなのが増えるのね』
『おい。どういう意味だ?』
聞こえているはずだが、こちらを振り返ろうとしない。
あんなのと同類にしてもらったら困るんだが。
一竜何やら盛り上がっている問題児を眺めた。
――――――
「別行動しかないな」
『別行動だな』
『――遅い』
「仕方ない――ですね」
ロゼ何とかの漁村まで戻ってきて。
改めて、泳いで来た問題児と合流したんだが――
こいつ。
薄々気付いてはいたんだが、陸上での動きが鈍すぎる。
人が歩くのとほとんど変わらない。
つまりは――問題外というやつだ。
ひとまず俺達が陸路を行く間の道中は、泳いで追って来てもらうしかないだろう。
『あー。そいつなんだけどよ――俺、この辺から離れるの初めてでよ』
――おい。
胸を張りながら言ってるが、そいつはつまり――
『さっきから言ってる「せいと」ってのか? どこにあるのかさっぱりなんだよな』
――評価は下方修正しておいた。




