234.水球の主
『断る』
海竜族の老竜――いや。
クソじじいの言葉が耳に粘つくように残る。
「しかし――あなた方の協力無くしては――」
『くどい。我等が隣人の頼みならともかく。人族の――それも脚竜族を救う為の協力の依頼等、受けるはずもない』
相棒が交渉を進めているが、この態度。
全くもって、取り付く島もない。
『おい――』
これ以上続けても埒が明かないだろう。それに――
俺は相棒に声を掛けた。
――――――
『無駄だ無駄。あの頭かってぇじじい。そんなんだから絶滅しそうになってんだよ』
『それは同感ね。ご老竜は労わるものだけど――アレ、一体何様のつもりなのかしら。切り上げるのがあと10秒遅かったら小石を投げつけてたわね』
――そいつは分かってた。
だからこそ、早々に説得を諦めたのだ。
ここで関係をこじらせても、何の得にもならないからな。
ただ――30cm角ぐらいの石を、気軽な感じで小石と言うのはどうかと思うが。
『でも――他に当てはあるのかしら? 海竜族に頼めないとなると――『スイマー』のクラス持ちを探すとか?』
俺は、少し先を歩く相棒を見る。
『だな。それも候補の一つだが――まぁ、やりようはいくらでもあんだろ。『潜水』と『水術』のスキルを持つ人族を雇っても良いし、海竜族の集落だって他にもいくつかはあるしな。そもそも、水の中に潜らなくても良いかも知れねぇ。少なくとも――あのクソじじいに頭下げる必要はねぇな』
『ははっ。クソじじいか。そいつぁ最高だ』
――突然。
側面から声がした。
反射的に目を向ける。
波間に浮かぶ長い首――海竜族の若い男竜だ。
一体何の用かは分からないが、あまり関わり合いになりたくないタイプだな。
俺達は無視して先に進む。
『おい、ちょっと待てよ。アレだろ? 海に潜れて水の扱いに長けてる奴を探してんだろ?』
無視して先に進む。
『おい! 待てよ! この前も助けてやっただろ?』
――この前? 一体何のことだ?
気にはなるが、無視しようとして――相棒達の足が止まっていることに気付いた。
どうやら。
このままこいつを無視してやり過ごすことは不可能なようだ。
諦めて、話を聞くことにする。
『――で。この前って何のことだ? 俺はお前なんか知らねーんだが』
『おいおい。お前がデカい蟻に襲われた時に助けてやっただろ。ほら水球で』
『蟻?』
おい。
それってもしかして――サギリの顔を見る。
『お? 思い出したか? 本当は見物するだけのつもりだったんだけどよ。お前、なんかヤバそうだったからな』
リーフェから聞いた話には水球は出て来なかった気がするが――サギリの顔から察するに、こいつの話は概ね事実であるらしい。
――だがな。
『そいつは俺じゃない。俺の親友のリーフェ――そいつを今から探しに行くんだよ』
これだけは訂正させてもらおう。
俺はあんなに訳が分からなくはない。




