233.幻像
「こっちじゃよ」
洞窟の入口。
入ってすぐの二股を左に進む。
洞窟の幅はそこそこといったところだが、天井は高く陰っていて。
人族より体が大きい俺達でも、今のところは圧迫感を感じない。
歩を進める俺達の目印は、先導するじーさんの明かり。
皆で黙って後に続いていたんだが――
「あの――何で海竜族の竜達はこんな所に住んでるんですか?」
ユニィの声が響く。
ああ――確かに。
事情を知らなければ、そんな感想になるんだろうな。
続いて相棒の声が響く。
「もちろん、隠れ住むためですよ」
「魔物からですか? 確かに――」
「いいえ――人族からです」
――再び。沈黙が訪れる。
まぁ、ユニィが知らないのも当然といえば当然。
既に1000年以上昔の話なので、支竜族に関する研究者や歴史家。そういった一部の人族しか知らない話なのだ。
例え同じ支竜族たる脚竜族の中でも、その辺りの経緯を知るものは僅かだろう。
――無論、俺は知ってたがな。
「――今となっては昔の話じゃよ。ほれ」
じーさんの声と共に右側の壁が明かりに照らされる。
――と。
『『ファンタズム』――か』
突然現れた側道に――思わず『インスペクト』を使い、視てしまう。
元々の岩肌に沿って展開される、光の屈折と反射を用いて作られた幻像。
初歩の光術の一つであり、陽光の元で見たならばあるいはといったところだが――薄暗い洞窟の中、松明や光球の明かりだけでこれを看破することは困難だろう。
そのまま側道に入る明かり。
俺達はその後を追う。
――沈黙が続く。
側道の中は、先程までと比べて幅は半分。サギリと横に並ぶと窮屈な幅に狭まっている。
一方。相変わらず天井は見えないほどに高い。
――沈黙が続く。
相棒とユニィの靴音だけが、洞窟の中に響いている。
遠く近く響くその足音が――所々曲がった洞窟の先。そこに、この足音の主が待ち構えているのではないか――そのような幻覚を生じさせる。
――ただ明かりの後を追う。その数分の沈黙を永遠に感じ始めた頃。
曲がり角の先に光を見る。
波のしぶく音を聞く。
「まもなくじゃ」
角を回る――と、視界が開けた。
広がる青。
足元の岩場に砕かれ、白く濁る波頭。
踏み出し、振り返り見る断崖。
――なるほど。
海竜族が好むと言われる場所そのものだな。
などという俺も、実際には海竜族の集落どころか海竜族に会うのも初めて。
いやが上にも期待が高まるというやつだ。
などと考えながら視線を戻すと、じーさんは岩場を先に進み始めていた。
他の面子と共に、俺も後を追う。
――と。
1分も経たない内に、じーさんが足を止め、海の側を向いた。
どうやら、集落に到着したようだ。
すぐさま駆け寄って。
海の中を眺めようとし――目が合った。
軽く驚いている間に、水面にその姿が現れる。
文献と同じく。
四肢は魚の様なヒレを持ち、首は長く持ち上がり――その口が開いた。
『なんぞ用か? 隣人達よ』




