232.眩き光
周囲に漂う潮の臭い。
目の前に広がる海はわずかに濁り、打ち寄せる波が腐ったようなその臭いを運んでくる。
目的の漁村は近い――そう思わせられるのは、富める海特有のその臭いによるものだろうか。
『なんだか、この辺りに来るのも久しぶりな気がするわね』
サギリの呟きが聞こえる。
――同時に。聞こえた風切り音に、俺はそっと距離を空けた。
何を思い出したのか、想像に難くはないんだが――突然尻尾を振り回すんじゃねぇよ。
軽く睨んでみたが、こちらには一瞥もくれない。
やはり無意識の様だ。質が悪い。
軽く舌打ちをしながら、後脚にわずかに力を入れる。
『確かもうすぐだったよな?』
「ああ。このペースならあと5分といったところだな」
相棒の言葉に頷いた――んだが。
『もう少し速くできないのかしら』
――耳障りな呟きだ。
再び舌を打ち、睨みつけようとして――気付いた。
サギリに乗ったユニィから四方に紫の光が伸び――ふたりともが辺りを見回している。
――何やってんだこいつら?
どうやら、先程の呟きも俺に向けたものではないようだ。
意味が分からないので、少しだけ速度を落とし後方に陣取った。
そのまま、ちらちらと観察を開始する。
――観察するうちに、ふと。
リーフェの奴から聞いた話を思い出した。
確か――『魔物がいっぱい出て僕のお菓子が危険でピンチでぐるぐるだった』だったか。
最後の辺りが中々意味不明なことになっているが――ああ。
そういうことなのだろう。
気にし過ぎだと思うんだがな。
それよりも――だ。
遠くに見え始めた目的地を見ながら思う。
――なんだ? あの眩しいのは?
――――――
目的地であるロゼ何とかの村。
そこは何ら特徴のない漁村の一つ――のはずなんだが。
俺は、目の前のそれを見つめる。
――『インスペクト』。
念じたままに、俺はそのまま目を凝らして――視る。
――同時に。
視覚を介して、俺の中に情報が像を形作る。
この色艶。形。何よりも――その光沢。
これはただの――外見上の特徴などと片付けて良い物ではない。
それは、あたかも――意図的に形作られたかのような。
――そうだ。
これは魔物の目を欺くため。そして、術を最大限に生かすため。
恐らくだが、そのためにその全てを犠牲にしたのだろう。
俺は目を閉じた。
そして、再び目を開き――
『つっても。やっぱ眩しいな』
思わず言葉が口から漏れる。
――にしても、あのじーさん。
どこかで見たことあるような気がしていたんだが――
ユニィと何やら親しげに話しているところを見ると――もしかしてこいつらの知り合いか?




