228.経験
――本から目を離して視線を上げる。
そこに在る相棒の瞳。
どうやら俺が読み終わるのを待っていたようだ。
『――ってか、読むの早すぎねぇか?』
思わず口から零れてしまう。
こいつ。やっぱり脚竜族にしか興味ねぇんじゃねぇか?
――と言いたいところだが。
『ま。いつも通りって言やぁ、いつも通りだが』
「経験だ。経験。お前もその内早くなるだろうよ」
――どうだか。
俺は逸れてしまった話を元に戻す。
『んな事より、分かった事をまとめようぜ』
「――ん? ああ、そうだな」
相棒が視線を横に動かす。
――ああ。
言いたいことは分かるが、今は俺達だけで良いだろう。
俺は首を横に振っておいた。
それじゃあ始めるぞ。
――そう言わんばかりの相棒の目線に頷きを返す。
じゃ――まずは。
《黄昏の奇術師
・奇術師は世界を巡った
・王より船を借り西の海へと向かった
・海の底の遺跡にてその姿を消した》
紙を机上に置き、気付き事項を箇条書きにしていく。
《門の遺跡と奇術師
・奇術師は『門』と呼ばれる遺跡より現れた
・『門』と呼ばれる遺跡は、転移するためだけのものではない
・『門』を起動するためには『鍵』と呼ばれるものが必要
・奇術師は多くの『門』を開くことが目的だった
・去る時は自らの『奇術』で消え去った》
《全国遺跡巡り――今、遺跡が熱い!
・遺跡は『力』を糧に稼働し事象を齎す
・各地の遺跡の場所が記されている》
――やはり。
書き連ねてみると違和感がある。
初めに読んだ『黄昏の奇術師』と次に読んだ『門の遺跡と奇術師』。
この二つの間には明確な違いがある。
姿の消し方だけではない。
王との関係も異なっているように感じる。
『門の遺跡と奇術師』では王と成り富に酔った長の前から姿を消し、『黄昏の奇術師』では時の王に惜しまれながらも最後には協力を得て旅立っている。
そう――これら二つは似ているようで、両者の関係性が全く異な――――いや。ちょっと待て。時の王?
俺は大きな思い違いをしていたようだ。
だとするならば――
「おい」
『――あ、ああ。悪い』
相棒の声で我に返る。
お互いのメモを交換して――ああ。やはり。
『やっぱりお前には敵わないな。相棒』
「それこそ経験だ。経験。私がどれだけやってると思ってるんだ」
困ったような、少し違うような。そんな感情が伝わってくる。
その言葉には答えず――俺は再びメモに目を落とした。
《『黄昏の奇術師』と『門の遺跡と奇術師』に関しては、異なる年代の物語と推定される
魔人の寿命を鑑みた場合、両者における『奇術師』が同一人物か否かは不明》
そのまま視線を下に移す。
《南大陸中央の脚竜族の他にも、北大陸東端には飛竜族の遺跡が西端には――》
――これには敵いたくはないがな。
苦笑しながら。
メモから目を離して――視線を上げる。
そこには。
「何で声を掛けてくれないんですか」
――頬を膨らませたユニィが居た。
――ああ。
そういやぁ――声出しちまってたな。




