223.聖域
――白。
見回す限りの白。白。白。
話には聞いていたが――実際に目の前にすると。その白さに圧倒される。
正直。
親友の言葉は話半分に捉えていたんだが――とりあえず、心の中で『悪い』と謝っておく。
「どうだ。目が痛くなりそうなほどの白さだろう?」
相棒が隣から語り掛けてくる。
普段なら『お前もな』と言ってあしらう様な言葉だが――今は。
その言葉が出て来ない。
それほどまでに、その白さは異常だった。
――いや。それだけではない。
俺は、親友の言葉をもう一つ思い出す。
それは『規則的に組み合わされた肉網状の通り』という言葉。
普通に考えれば、計画的に整備された都市ということになるが――
俺は、もう一度周囲をぐるりと見回して。
『なあ。相棒』
正面に遠く見える建物を眺めながら――形だけの問いを投げ掛けた。
『この都市――もしかして遺跡なのか?』
――そうだ。
統一された色相。幾何学的な構造。
そして――それらにより『力』が集まるであろう場所に位置する聖殿。
全ての要素が特徴が――この都市が何らかの意図をもって造られた建造物。その遺跡であることを指し示している。
「ああ。私はこの手の歴史は専門ではないが、研究者の間では有名な話だな」
隣に目をやると、相棒が少し肩を持ち上げていた。
「一般的には、聖域を守護するためにこの聖都という都市が築かれたと思われているが――実際は違う。この遺跡が聖域を生み、その聖域に人々が集まって聖都が。そして聖国が形を成したというわけだ」
どうやら興味が無いのだろう。
相棒はそれだけ言うと、さっさと歩きだした。
遅れないように後を追う。
『なるほどな。――それじゃあ。この遺跡が生み出す聖域ってのは何なんだ? それほど守る価値があるものなのか?』
「――どうだろうな」
相棒は、首を左右に振りながらもこちらを向こうとはしない。
「世間の噂では魔物避けの効果があるとか、俺達学者の中の噂では不老長寿をもたらすとか。――そういう話なんだがな」
やはり、興味がないようだ。
だが、これだけは聞いておく必要がある。
『他の場所に転移するとか、そう言う話はないんだな?』
「ああ――そういうことか。そういう話はないし、実際その可能性は低いだろうな」
『根拠は?』
「ここが言わば『白の遺跡』だからだな」
――なるほどな。相棒の言葉に、思わず頷く。
白の属性色が表すのは、光属性の「光」と「星」。そして、氷属性の「結晶」と「無垢」。
いずれにせよ転移とは関係なさそうなものであり、そう考えると聖域が転移に関係する可能性は、限りなく低いと言えるだろう。
当然。
転移する機能は遺跡の属性とは関係がないという場合もあり得るが――それも踏まえて「可能性は低い」ということなんだろう。
「――到着だな」
相棒の声が俺の意識を引き戻す。
どうやら。俺が思考の海を漂っている間に、目的地へと到着したようだ。
目を上げた俺の視界に入る、閉ざされた銀扉に両脇を固める銀鎧の門番達。
――そう。ひとまずの目的地。
もう一竜の友竜とその相棒が待つ、聖国の中枢――聖殿へと。




