218.リコール
黒い穴が現れてから消えるまでの時間が約5分。
そして、こうして手紙をやり取りする場合。
返答と共に再び黒い穴が現れるまでに要する時間が約10分。
これが、俺とリーフェが『ポケット』を使って会話する場合の標準的な所要時間だ。
即ち。
この方法を用いた場合、一度の手紙のやり取りに約15分の時間を必要とするということだ。
最近はヘブンズゲートとかいう複合術を使って時間短縮しているが――それでも、お互いに返答を書く時間は必要となる。
そして、今。
出現から既に5分以上が経過し、黒い穴は消えている。
このまま返答を待つのも良いが――俺はもう少し楽しむことにした。
――『リコール』。
念じると同時。
視界の端に先程の光景が――再び。
紫光の糸が映る。黒い穴が現れる。
――ここだな。
俺は、記憶の中のその瞬間に注視する。
それだけで。
目の前の光景が――時が止まったかのように静止した。
静止した光景の中。
俺が着目したのは――15cm程の黒い穴。
3週間前と比べて、3割程大きくなっているが――今。着目すべきはそこじゃない。
その穴の裏側の――光の糸。紫色の光。その伸びる方向だ。
この光は2点間を直線で結ぶ。
つまり、光の伸びる先にあいつが居るはずなんだが――
光は斜め下方向。
地面へと向かって斜めに伸びている。
――そうか。
ここで俺は錯覚させられていたんだな。
思わず口角が上がる。
無論だが。
この円環状の世界において。
北と南に離れるほどに。東と西に離れるほどに。
2点間を結んだ直線は、より角度を深くして地面へと向かうことになる。
今居る場所とリーフェ達の向かった遺跡。
2点間の距離は、東西はさほどでもないが南北は大きく離れている。
3週間前の時点でも、30°程度の角度で地面に向かっていた。
そして今。
目の前に映る光は、45°程度の角度で地面に向かっている。
ただし――遺跡のある北ではなく西に向かって。
――笑いが、腹の底から込み上げてくる。
何が起こったかは分からないが――いや。あいつの事だ。
何が起こってもおかしくない。
一体。
どんな返答があるのか――楽しみで仕方がない。
目を閉じ――視界を現実に戻すべく『リコール』の術を解除する。
なあ――お前はどれだけ俺の予想を超えてくれるんだ? 親友。
その答えまであと少し。
2、3分といったところだろう。
俺は目を開いて――――
『――っはっ! ははははははっ! おまっ!』
それは――いくら何でも反則だろ?
俺の腹筋を壊す気か?
俺の目の前にあったのは。
空中の黒い穴から10cm程突き出して引っ掛かった――リーフェの鼻先だった。




