217.慧眼
第六章開始です。
第七章はエピローグなので実質の最終章となります。
そして、重要なお知らせ。
主人公が(予定外に)どこか行ってしまったので、第六章はメイン視点が変更となります。
ご了承願います。
――――ん?
視界の端に捉えたそれに、足を止める。
『ようやく――来たか』
一拍の後。
呟く俺の目の前に。紫色の光の糸の先端に。
黒い穴が。あいつの術が展開される。
今回はゲートではなく、通常の『ポケット』のようだ。
俺は、準備し携帯していた手紙をその黒い穴に放り込んだ。
――と同時。
かさっと音を立て、紙片が落ちてくる。
――まぁ、いつもの手紙だな。
そう思い、拾い上げて中身を見て――
思わず笑みを浮かべてしまった。
《お腹空いた。二竜分食べ物入れて》
――ああ。
やはり、リーフェの奴は変わらねーな。
久しぶりに親友から来た手紙だが、そのいつもと変わらぬ調子に――いや。これは。
違和感を感じた俺は、躊躇うことなく術を行使する。
――『インスペクト』。
紙片を視る。
いつもリーフェが使っている紙。
だが――俺は目に『力』を集中させる。
紙の表面を。光に翳して反射させて――詳細に観察する。
――やはりおかしい。
文面を再度視る。
一見、いつもと同じ文面に見えるが――やはり。
俺は術を解除し、一つ息を吐いた。
まず、文面に感じた違和感。
その原因は、《二竜分》という言葉だ。
あいつが二竜分という場合。
それは、普通に考えればサギリとの二竜分ということだろう。
なぜならば。もし「契約者と」であれば、二竜ではなくふたりと表現しているはずだからだ。
――だが。
あのリーフェとサギリが二竜きりになっているという状況。
つまりは、その場に契約者が居ないという状況。
これは明らかな異常事態だ。
そして――この紙片。
この紙には全面に細かい砂粒が付着しているが――その砂粒から、異常なまでの濃厚な『力』を感じる。
この辺りの砂では考えられない濃度――いや。他でもあり得ない濃度だ。
一体この手紙は――どこで書かれたものだ?
何故だ? お前はどこに居る? 今度は一体何をした?
思考する。思考する――思考する。
――――ああ。
『――っくくっ。ははははっ』
相変わらず――最高だ。
突然笑い出した俺に、相棒がちらとだけこちらを見て――「ああ、いつものか」と言いたげな顔を見せる。
ともかく、手紙は差し替えだ。
そうだな――文面は。
《おい親友。お前、今度は一体何を始めたんだ?》




