表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第五章 開花
223/308

215.霞むように消えていく

 『リンケージ』の術が解けた瞬間。


 目前に迫っていた、魔竜の爪が前脚が体躯が。

 止まり縮み――退いていく。


 私は、たった今起こったばかりの事を思い返す。

 以前も体感した世界。魔竜とその絆を表した心象風景。

 そこに突然、双眸を輝かせたリーフェが現れて――


 考えながら、私は反対の前脚を絡めとっていた筈のリーフェの方を見た。

 今はその瞳の色は普通だけど――って。


「あれ?」


 思ってもみない光景に、思わず間の抜けた声を出してしまう。


「キュロちゃん!」


 後ろの方からは、ソニアの声が。

 ああソニア。無事だったんだね。良かった――って。

 今はそのことを考えている場合じゃない。


 私は考えることを止めて、リーフェの元に。

 魔竜と共に浮き上がっていくリーフェの元に、駆け寄ろうとして。だけど。

 体が動かせないことを思い出す。


 ――ねぇ動いて。


 私の目の前で。

 リーフェと魔竜が絡まりながら、天井に向かって浮かび上がっていく。

 だけど、体に掛かる重さが私の自由を奪う。


 ――お願いだから動いて。


 体が動かないならと、『ポケット』を障壁にしようと思ってみたけれど――リーフェみたいに上手くいかない。

 その間にも、リーフェと魔竜が天井に。天井の()()()()へと近づいていく。


 ――誰か。お願い。


 でも。

 私の願いをあざ笑うかのように。

 /リーフェの体が/。

 天井の()()()()に。

 飲み込まれていって。


 私は。


 霞むように消えていく黒い平面を――ただ見ている事しかできなかった。



 ――――――


「キュロちゃん!」


 私の声が空しく響く。


 そして、そのまま。

 私が――私達が見ている目の前で。

 /キュロちゃんを/飲み込んだ転移の門が、その実体を失っていく。


「――っ。僕は一体――」


 呆然としていた私の耳が捉えたのは。

 救いたかった声。守りたかった声。

 だけど――今は少しだけ心が痛む声で。


「お願いロッソ。他の皆に『クリア』の術を」


 こんな時でもいつもと変わらない、ヤーデお姉ちゃんの声も。

 少しだけ冷たい気がして。


 そんな皆から顔を背けるように、誰も居ない方向に顔を向けた。


 ――そのはずなのに。


 私の目には、見慣れない老婆が座り込んで――天井を見つめる姿が映っている。

 いや――あれは。


 私は思わず立ち上がって――体が動かせることに少しだけ驚きながらも――その老婆に近づいた。

 本当なら。予想通りなら。凄く危険なはずなんだけど。

 なぜか――大丈夫だっていう確信があって。


「なぜそんなに――笑っているの?」


 近づくと分かる鉄のような匂い。

 そんな状態なのに、その老婆は皺だらけの丸顔に笑顔を浮かべていて。



 だから結局。

 私にはその先を口に出すことはできなかった。


 さっきの瞳の輝きは一体何だったの――って。


次回第5章最終話――の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ