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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第五章 開花
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211.対峙

 呆然と見つめる僕の目の前で、小瓶の中の黒い液体が減っていく。

 目を背けたくなる気持ちの一方で、その光景から目が離せない自分が居る。


 それは、臭気が漂って来ても同じで――ただ少し。

 3m――いや、もう少し――5m程、後退っただけで。

 視線はずっと釘付けのまま――


「リーフェっ!」

『この馬鹿!』


 ――だから。

 その声が聞こえた時も。体に衝撃が走った時も。

 蹴り飛ばされたと気づいた瞬間ですらも。

 何故そうなったのかは理解できなくて。


 ――ようやく。


 地面を転がる、その回る視界の中に魔竜の尾を。

 先程まで僕の居た場所に打ち付けられた、直径1mを超えるそれを――捉えることで、初めて理解できた。


『ユニィ! サギリ!』


『何よそ見してるのよ!』


 そのまま薙ぎ払われる尾の向かう先。

 それを知覚すると同時に、僕は『ポケット』を起動した。


「ソニア!」


 ユニィの声が僕の耳に届く前に。

 魔竜の尾が、ソニアとの間に張り巡らせた『ポケット』に当たって止まる。

 そのまま引かれる尾を追うように、視線を魔竜に移した。


 背後から聞こえる、ゴホゴホとせき込む音が気になるけれど――今はそちらに意識を割く余裕は無い。

 何故なら。先程まで倒れ伏していた魔竜が――今は立ち上がり、こちらを睨みつけていたからだ。


『相変わらずうっかリーフェはうっかリーフェね』


 真横から聞こえるサギリの声に。

 顔を向けずに言葉を返す。


『なんで――なんで来たんだよ』


『は? あなた――』

「後から追い掛けるって言ったでしょ?」


 サギリの言葉を打ち消すように発せられたユニィの言葉に。伝わってきた感情に。

『でも――』という言葉を飲み込む。


 冷静に考えてみれば――いや、考えるまでもなく。

 ユニィがソニアや僕を追ってくるのは当然だ。

 どうやら、戻って来た記憶に。()()()の感情に。

 そんな簡単なことも忘れていたようだ。


 だから僕は――代わりの言葉を口にした。

 疑問には思っていたことだけど。

 今話さなくて良いことを。まるで話を逸らすように。


『あの黒い穴――何なんだろう。ユニィ――なんでしょ?』


 ――――沈黙。

 当然だ。

 僕も答えを期待したわけじゃない。ただ、話を逸らしたかっただけ。

 そのまま魔竜の動きに全神経を集中して――

 ――だけど。


「分からない。分からないよ。でも――何でかな。知ってる気がするの――ううん。感じたことがあるって言った方が――良いかな」


 細く呟かれたユニィの言葉。

 その言葉が何故か。

 僕の耳に脳内に。強く――木霊していた。


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