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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第五章 開花
218/308

210.黒

「キュロちゃん」


 ソニアの声に頷きを返す。

 膝を折ってソニアの前に屈むと、すぐに僕の背中に跨った。


「シャルレノさんも。あの黒い霧が晴れたら――行きます」


 僕達の視線の先――ホールの中央よりも向こう側は広範を覆う霧。その漆黒に遮られている。

 霧の中がどうなっているのかは分からないけど――()()()と同じであれば。

 僕は霧の中を覗こうとして目を細めてみた。


 ――うん。やっぱり何も見えないね。


 やっぱり、霧が自然に晴れるのを待つ必要があるみたいだ。

 ――しかたがないので、待つ間にソニアの作戦をもう一度反芻することにした。


 まず霧が晴れたら。

 そこから心術による精神汚染が定着するまでの時間。立ち尽くしているその1、2分が勝負だ。

 だから僕はすぐに、ソニアを勇者のお兄さんの所に連れていく。


 ソニアがお兄さんをアレ(黒い液体)でどうにかしている間は周囲を警戒して。

 魔人は銀騎士のお姉さんが受け持ってくれることになったから、僕は魔竜を主体に警戒すれば良いはずだ。

 勇者のお兄さんさえ正気に戻れば、お兄さんの術で他の人達も元に戻せる。


 もしそれができなかったら?

 ――その時は。ソニアだけを連れて逃げよう。


 それにしても――そこまで思い返してちょっと不思議に思った。

 何でソニアは他の人にこの事を言わないんだろう?

 その方が簡単なはずなのに。


 うーん。

 いくら考えても分かんないし、後で聞いてみようかな。




 ――()()()はすぐに晴れたはずなのに。


 作戦の反芻も終わって。

 霧が晴れるまでの時間が。待つだけの時間が――随分と長く感じる。

 恐らく。

 実際の時間は変わっていないはずだけど。

 気持ちの持ち様だけで、認識上の時間はいくらでも変化する。


 でも――時間が前に流れる限り。()()()()()()()()()()

 必ずその時は――訪れる。


 だから――――








 ああ。()()か。







 ――この感覚は。

 全身に感じるこの悪寒は――――



 僕は気づく。今更ながらに気づく。

 ()()が起きて。運命が変わって。

 ――一体。()が変わったのか。



『――ユニィ』


 思わず両膝を地面についてしまうほどの悪寒。

 それを齎した『力』の向かう先は。


「何これ――」

「ソニア様――伏せてください」


 僕の背中でソニア達が何かを言っている。

 多分。僕と同じものを見ているんだと思う。


 見上げる僕の頭上。

 直径200mを超える円形のドーム――だった場所。

 今――そこにあるのは黒い穴。

 いつも見ている黒い穴。

 いつもと違う黒い穴。


「それよりも――キュロちゃん!」


 ソニアの声に我に返った。


 時間経過なのか黒い穴の影響なのか、目の前の黒い霧は既に霧散している。

 僕はそれを認識すると同時に、一歩目を踏み出した。

 銀騎士のお姉さんは――既に一歩先を進んでいる。


 そして、肝心の魔人は――天井の黒い穴を見上げたまま動きが無い。

 その姿は靄みたいに見えているから、表情は分からないけど――驚いているのだろうか。


 ――この隙に。


 僕とソニアは、そのまま立ち尽くす勇者のお兄さんの元まで辿り着いた。

 同時に。先程まで魔人が居た場所からは、剣戟の音が響いてきた。


 ――いくら銀騎士のお姉さんが強いといっても、魔人を一人で抑え込むのには限度がある。

 こちらも手際よく進めないとね。


 背中から飛ぶように降りたソニア。

 その手には既に、例のアレ(黒い液体)の入ったガラス瓶が握られている。


 そして。


 栓を開けて。その瓶の口をお兄さんの口にねじ込んで――って。


 ――え? え?

 それ飲ませるの? 飲ませちゃうの?

 何かヤバいの入ってるんじゃないの? それ。


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