20.失言
――カロンおばさんに何か言わなかったか――
僕は見張りおじさんの言葉を反芻する。
――そうだった。
ついつい衝撃の事実に意識が奪われていたけど、そもそも僕の身に何が起こったのか。それを考察していたんだった。
――そう、確かあの時。
『ツノうさおばさんがブロスくんって言ってたから――何でだろうって』
「カロンさんがブロスくんって言ってたから?」
ユニィが僕の言葉を繰り返す。
『それで――ツノうさおばさんはなん――』
ツノうさおばさんの笑顔が浮かぶ。脳裏に浮かぶ。浮かぶ。
「カロンさんはなん――って、どうしたのリーフェ!?」
僕の頭に浮かぶツノうさおばさんの笑顔。
笑顔の中のその目は――その口は――僕は体が震える。
――一点の曇りもない満面の笑み。
ああ、みんな。ユニィ。想像してみて欲しいんだ。恰幅の良いおばさんの満面の笑みを。
――それが脳裏から離れない。
「ヤバい! ロッソ! 術を使え!」
「はい! 『クリア』!」
青白い光が僕を包む。澄んだ湧水に脚を差し入れた時のような心の淀みが流されていく感覚。
目を閉じれば、おばさんの顔がツノうさの顔に塗り替えられていく。
――ああ。もう大丈夫。
『――ありがとう。勇者のお兄さん』
例え言葉を理解してもらえなくても良い。心から思ったその言葉を口にした。
――――――
「あー。まぁ、つまりだな。お前は女性に対して言ってはいけないことを言おうとしちまったんだ」
落ち着いた僕達は、見張りおじさんの話を聞いていた。途中からソニアもやってきたけど、遊ぶのはもう少し待っててね。
おじさんの話では、これは隣村ではほとんどの子供が経験する出来事なんだそうだ。
本人は社会常識を教える一環とか言っているみたい。だから、驚かす意味も込めて、記憶を飛ばすと同時に無害な笑顔を意識に植え付けているんだとか。
――そう無害な笑顔だ。
誰も彼女に真実を告げることはない。いや告げられなどしない。だから、それは無害な笑顔なのだ。例え心にトラウマを持つものが現れようとも。
――だから。うん。
次からは――次に女の人に年齢を聞くときは、気を付けて話そう。
そうユニィに言ったらめっちゃ怒られた。なんで?
――――――
「ありがとうございました」
「ロッソさん。またねー!」
コクコク。
見張りおじさんと勇者のお兄さんにお礼を言って別れを告げる。
『それじゃ予定通り遊ぼう!』
僕はユニィの家に走り出す。
「あーっ! 待ってキュロちゃーん」
ソニアが追いかけてくる。
「あっ。リーフェ。とっく――」
ユニィが何か言っている。だけど、早くしないと置いていくよ?
何か忘れてる気がするけど、大したことじゃないよね?




