199.魔人
わずかに震える体。
この震えは一体何だろう。
もう一度、その姿を覗き込む。
やっぱり――何度見ても人族にしか見えない。
――だけど。
僕は『サーチ』の術を使った――半ば確信と共に。
薄れた紫の光が四方に広がる。
そして――その内の一つは。確かに、目の前の人族を指していた。
『やっぱり――』
僕はそれを確認すると、ソニア達の待つ場所まで後退した。
そして――何か言いたげにこちらを見ていたソニアに、今僕が見たものを告げた。
『アニキ達みんな、人型の魔物と戦ってるみたいだよ』
「人型の――魔物?」
ソニアの言葉に、辺りを警戒していた銀騎士のお姉さんがこちらを振り返る。
僕はそのまま言葉を続けた。
『うん。人族に見えるけど――魔物を『サーチ』したら、光がその人族を指していたからね』
ソニアが口を開きかけて――お姉さんの方をちらと見た後に閉じる。
眉間にしわを寄せて、何かを言いたそうな顔だ。
――そうだね。
ソニアが言いたいことは分かる。
そう。「魔物」と呼ばれる存在。
それは、普通の生物とは一線を画す存在。たとえ普通の生物と姿形が似ていたとしても――そこには明確な違いが二つある。
一つはその生命力。
普通の生物であれば死んでしまう程の傷を負っても、魔物であれば簡単に死ぬことは無い。
さらに言えば、生物としては不自然なまでの寿命まで有している。
もう一つは『力』。
一般的に。万物が持つとされる『力』は、体が大きくなるとか高度な知性を有するとか――生命としての強さに比例して強くなる。
だけど――魔物だけはその理を逸脱している。
例えば、明らかに弱い――小指サイズの魔物でも人族よりも強い『力』を持っていたりするのだ。
そして、そんな「魔物」を『サーチ』した時に、反応があったということは――
あの人影は姿形には関係なく、「魔物」という結論になる。
だけど、人型の魔物なんて聞いたことすら――ない。
そうなのだ。見たことも聞いたこともないのだ。
「まさか――魔人でしょうか?」
――そう思っていたんだけど。
お姉さんはその正体に心当たりがあったようだ。
『魔人?』
思わず聞き返す。
僕の言葉は分からなくても言いたいことは分かったのだろう。
お姉さんは頷いて続けた。
「はい魔人です。魔人は貴魔族に分類される、知性を持つ人型の魔物です。伝承によると、地の底より現れ地の底に還るとされています」
「なぜそんなものが――」
ソニアの眉間のしわがさらに深くなる。
何か考え事をしているようだ。
「分かりません。ここ200年は出現の報告は無かったはずですが――もしかしたら。大魔が竜だという先遣隊の報告は誤りだったのかもしれません」
――うーん。
何だか良く分からないけど、さっき見た魔人が大魔ってこと?
でも、記憶では――
――――あれ?




