198.地形解析
――酷い目に遭った。
ソニアの嘘を指摘したところまでは良かったんだけど。
まさか――そのまま泣きだされるとは思わなかった。
文句の一つでも言っておこうと思っただけなのに。
たっぷり5分以上泣いた後で、ようやく泣き止んでくれた時には――心底ほっとした。
だって。
まるで僕がいじめたみたいになってたし――何より、銀騎士のお姉さんの視線が怖かったから。
一見感情の見えない無表情に見えるんだけど――
――うぅ。
思い出しただけでも背筋がヒヤッとする。
あの顔には確かに。
静かな怒りが滲み出ていた――と思う。
だけど――今は。
僕は銀騎士のお姉さんから顔を背けながら、口を開いた。
『それよりも。そろそろ行かなきゃ――でしょ?』
「うん。そうだね――でも」
何だかソニアの歯切れが悪い。
まだアニキ達に追い付いてないみたいだけど、急がないとそろそろマズいんじゃない?
それとも――もしかして。
『大丈夫だよ。疲れてるのなら僕が乗せてくから。軽く走るぐらいなら乗れてたでしょ?』
あの頃みたいに自由自在には乗れないけど、ユニィと三にんで遊んだ時には何度か乗せて――
「違うの――そうじゃなくて。――ちょっと。道を忘れちゃって――」
――違ったみたいだ。ソニアが少し俯いている。
でも。そういうことなら。
『それなら大丈夫だよ。見てて――『スキャニング』』
『測位』スキルの術の一つ『スキャニング』。
ロゼばあちゃんみたいに、『プロット』の術と組み合わせないと意味がない術に思えるけど――確信があった。
僕なら――理解できる。
脳裏に浮かぶ遺跡の構造。
行き止まりの道から最奥の広大なホールまで。
遺跡の全容が虚像として構築されていく。仮想空間として認識されていく。
後は――
僕はそのままアニキを『サーチ』した。
これで――アニキ達がどこまで進んでいるか。
どのように進めば追い付けるか。
簡単に、把握できるはずだ。
額から溢れた『力』が収束し、僕の目の前に紫の光が現れる。
この方角と――遺跡の構造からすると。
『ソニア。分かったよ。アニキ達はここから少し先の大部屋に居るみたいだよ』
――胸を張る僕を見つめるソニア。
何だか、そんなソニアからの尊敬の眼差しが――新鮮だ。
いつもなら――今頃。サギリの尻尾が飛んでくるところだからね。
『あの角の向こうだよ』
僕がソニアと合流してからの道は順調だった。
遺跡の構造は把握できるし、軽くとはいえ僕が走ればソニアが歩くよりも圧倒的に速い。
追い付くまで、数分と掛からなかったのは当然だと思う。
だけど――
それにしても、アニキ達はまだ同じ大部屋に居るようだ。
それに、何だか中で動き回って――
「ソニア様」
僕が声を掛けるより先に。
銀騎士のお姉さんが前に出る。
耳をすませば――何か固い物が砕けるような破砕音が聞こえてくる。
もしかして――魔物と戦っている?
「キュロちゃん」
ソニアの呼びかけに一つ頷きを返して。
慎重に角まで近付き、顔だけ出してその先を覗いてみる。
――そこには。
予想通り戦っている精鋭部隊の人達が居て。
だけど――
『アニキ達――いったい何と戦ってるの?』
ちらっとしか見えなかったけど、アニキ達と戦ってたのは――もしかして人族?




