196.門を開く
夢から醒めた。
――いや。もう誤魔化すのは止めよう。
あれは記憶。僕の記憶。
その記憶の一本を手繰り寄せた――ただそれだけ。
首を振り、頭の芯に残る薄靄を振り払う。思考を切り替える。
『やっと目覚めたの? リーフェ。呑気なものね』
――と。サギリの声が聞こえた。
どうやら先に目覚めていたようだ。
声の方を振り向くと、サギリは未だ眠るユニィのそばに座ってこちらを見ていた。
『そんなこと言っても仕方ないだろ? それより――ソニアはどこ?』
『私は知らないわよ。起きた時には居なかったもの』
どうやらソニアはもうここには居ないらしい。
――とすると。
行先は容易に想像できる。
『それよりリーフェ。貴方その――胸の模様は何?』
『模様?』
言われて初めて気付いた。
僕の胸の真ん中に。中心から放射状に広がる太陽のような――金色の模様があることを。
ということは――
僕は眠りに落ちる直前のことを思い出した。
確かあの時、視界の端に――
僕は再び首を振り、思考を切り替えた。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
『ごめんサギリ。ユニィのこと――お願い』
『ちょっと! 何言ってん――』
サギリの抗議の声は無視して、僕は目を瞑り意識を集中する。
確信がある。
今までは無理だったけど、今なら――できる。
まずは『サーチ』。
そしてその始端と終端に『ポケット』を。
『待っててねソニア。僕も――行くから。終幕の門!』
術の行使に合わせて、声を上げる。
――同時。
全身が冷たくなっていくのを感じた。でも。
――まだだ。
僕はさらに。術に『力』を籠める。
限界まで――その先まで。
ごめんだけど、僕の中だけじゃなくて――絆で繋がる先。
ユニィからもサギリからも。
目の前に――直径1mほどの丸く黒い穴が浮かんでいる。
でも、まだ少し足りない。
輪郭はぶれ、安定させるには至らない。
もう少し。もう少し――何か。
焦るばかりの僕の目の前で――唐突に。
穴が2m程に拡大し、輪郭も安定した。
これは――環を満たすように溢れるこの感情は。この『力』は。
『ユニィ?』
「――行くんでしょ? お願い。私も後から追い掛けるから」
振り返ると、ユニィが体を起こすところだった。
僕は一つだけ頷きを返して再び前を向く。
――ゲート。
複合術で特定の名前がないから、いつもは適当な名前で呼んでいるけれど。
この術は、ただの『ポケット』とは違う特性を持っている。
一歩――黒い穴の中に足を踏み込む。
その一つが、生命あるものも通過可能というものだ。
マーロウは亜空間が何とか言ってたけど――
また一歩。今度はほぼ全身が通過する。
今は原理なんてどうでも良い。
今は――ただ。
『――置いてくなんて酷いよ。ソニア』
――――――
霞むように消える黒い穴を見つめる。
――まったく。あのバカはいつも自分勝手ね。
思わずため息が出る。
だけど。
そんなことよりも――と気を取り直して振り向く。
『目が覚めたのね。ユニィ』
「うん。私の事、見ててくれたんだよね。ありがとう」
『しかたないでしょ。私が一番最初に目覚めたんだから』
「うん。そうだよね」
笑顔を向けてくるユニィに、少しだけ背中がくすぐったい。
誤魔化すように、話を続けることにした。
『これから――どうするの? もう一度眠るのかしら?』
あのバカ、契約を通して私達からも『力』を集めたりするから――ユニィの顔色が悪くなっている。
できれば少し休ませたいんだけど――
「ううん。もう十分休めたから、大丈夫だよ。それより――私達もそろそろ追いかけよ?」
『――――しかたないわね』
ここまで真面目だと、見ているこちらの方が心配になる。
でも――
リーフェの事は私も放っておけないから。
『私も本気を出すから――道案内はお願いね』
背中に上るユニィの返事も待たず。
――『アクセラレート』を発動させた。
――――――
そういやリーフェの奴。最近連絡して来ねーな。
何の拍子にか――ふと。
そんな事が思い浮かんだ。
こっちの調査も進んできたし、早いとこ結果を共有しときてーんだがな。
あいつにも絡む話――だしな。
つっても、連絡が無くなってそろそろ3週間か。
最後は――『めんどくせー』ってメモを送った時か?
その後しばらく黒い穴を無視してたら、連絡が来なくなったんだか。
――まったく。
1日5回も繋げてきたかと思えば、次は3週間も連絡を寄こさねーとか。
丁度良いバランスというのがあるだろ?
――まぁ、そんな訳の分からないところが面白いんだからしょうがねーか。
とにかく。
次に連絡が来たら――そうだな。
南の大陸に来させるか。
それじゃ文面は――と。
次回から第6エピソード。
よろしくお願いします。




