2.運命の出会い
特殊な進化はともかく、進化の基本は走ること!
――というわけで、僕達子竜は毎日走り回って過ごしている。
遊びもかけっこだったり鬼ごっこだったり。
とにかく走ってばかり。ほんのーってやつかな?
でも。月に一度だけ成竜と一緒に行く遠足の日。
僕達が一番好きなのはこれなんだ。
普段は村から遠くには行けないけど、この時は数十キロ離れた山脈の麓まで行くことができる。
まぁそこで何をするかというと、山の斜面や林の中を走り回るだけなんだけどね。
そして今日はその遠足の日。
ちなみに、今日の引率はブルーラプトルのリネスさん。
2回進化だけど属性色進化は珍しいのでモテる。とてもモテる。
ブルーといっても全身ブルーではない。
脚竜族の特徴でもある長い首と尻尾。その首筋、小さめの頭の下から尻尾にかけてブルーのラインが入っていて、見た目もカッコいい。
そりゃ当然モテるよね!
青が表すのは水と空――だからかな? 今日の遠足は山裾の湖!
みんなで湖の周りを周回したり、伝説の水面走りにチャレンジしたり。
うん。みんな結局どこでも走り回るだけなんだよね。
――って、かくいう僕もやっぱり走り回っていた。やっぱりほんのーだ。
いつもと違う空気。
いつもと違う地形。
いつもと違う景色。
そりゃはしゃぎ過ぎるのも仕方ないよね?
ただ、何事も過ぎたるは何とやら。
――うん。まぁ今の現状をいうと、そういうこと。
実をいうとみんなとはぐれて迷子になっていたりするのだ。
みんなー僕はここだよー
こういう時はじっとしていた方が良いとか、どこかで聞いた気がする。
でも、僕ら脚竜族にはそんなの無理無理!!
――ということで、周囲を探索してたんだけど。
突然。
ふっ。と引っ張られたような感覚があった。
あれれ?
思わず意識をそちらに向ける。
「誰か。誰かっ」
小さいけど、何だか林の中から悲鳴が聞こえた気がする。
うーん。
迷子かな?
ちょっと行ってみよーっと。
――と思って、近づいてみたんだけど――
うーん。お取り込み中みたい。
木々の間を縫って走る人族の少女と、後を追いかける卑魔族――ゴブリン。
追いかけっこで遊んでいる――わけないよね。
早く助けないと!
すぐさま僕はゴブリンを追いかける。
それなりの速度だけど、僕らと比べたら止まってるみたいなもの。
当然あっという間に追いつく。
「グギァア」
棍棒を振りかざし僕を威嚇してくるゴブリン。
「きゃぁっ」
その声に悲鳴をあげて逃げる速度を上げる少女。
うーん。驚かせちゃったかな?
とりあえず、ゴブリンは振り切っちゃおう。
加速してゴブリンの横を抜けると、すぐに少女に追いつく。
僕達脚竜族の前脚は短くて不器用だから、走る少女を抱きかかえる事は難しい。
だから。
僕はそのまま少女の服の首の後ろを咥えて――
――痛っ。
突然少女が手を振りまわす。
とっても咥えにくいから、やめて欲しい。
でも、まずは逃げ切ることが先決。
そのまま加速してゴブリンを振り切る。
「ぎゃぁぁ」
だから痛いって!
少し落ち着いた少女を地面に下ろして立たせる。
流石におかしいと思ったのか、後ろを振り向いてくれて良かった。
彼女も僕ら脚竜族のことは知ってたみたいで、目を丸くして驚いていた。
とりあえず、語りかけてみる。
もちろん、顔は左斜め上15度――一番カッコ良く見えるアングルを作ってだ。
『大丈夫だった?』
彼女の表情が少しずつ変化する。初めに目が大きくなって、次に眉毛が寄っていく。
人族の表情は僕達には分かりにくいけど――うん。これってアレだよね。
いわゆる困惑ってやつ。
そりゃそうか。僕達は人族の言葉は喋れないし、僕達の言葉を人族は聞き取れないからね。
逆に僕達は人族の言葉を聞き取れるのに。不思議不思議。
そんなことを考えていると、彼女の方から喋り出す。
うん。小さいのにとっても礼儀正しいね!
「助けて頂いてありがとうございました。私の名前はユニィと言います。あなたは脚竜族の方ですよね?」
とりあえず、大きく頷いておく。
それを見て彼女――ユニィの瞳が少しだけ大きくなる。
ん? なんかちょっと嫌な予感がするぞ?