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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第五章 開花
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191.悲劇の足音

 ああ。楽園は今。

 ここに――顕現した。


「キュロちゃんは今日も幸せそうだね」


 ソニアの言葉に“僕”は無言で頷く。

 奇しくも僕も全く同じ気持ちだ。

 こんな時に――安っぽい言葉なんて口にできるわけがない。


「でも――そんなに口いっぱいに頬張らなくても。お肉は逃げないよ?」


 ソニアはそんなことを言ってるけど。

 このお肉が美味しすぎるから――仕方ない。


 ――ああ、本当に。


 心の底から感慨が沸き上がる。

 味覚を感じることができて良かった――って。




 早いもので。

 僕達が聖国に着いてから、3ヵ月が経過していた。


 ソニアは修行と称して毎日神様にお祈りを捧げている――らしいけど。

 なぜか“僕”はずっと美味しいお肉を食べているだけ。しかも食べ終わった瞬間に、次の日のお肉が現れるのだ。

 夢だとか夢じゃないとか、もはやどうでも良い。


 ――美味しいお肉の永劫回帰――


 これを楽園と呼ばずして僕は。一体何を楽園と呼べば良いのだろう。

 食べている場面ばかりなので、ソニアの事もアニキ達の事も。

 一切合切全く何にも。細かい動向は分からないけど――そんなものは些細な問題だ。


 ただ一つ。

 懸念があるとするならば――


「ソニア様」


 その声を聞いた瞬間。フラグ――という言葉が僕の脳裏を過る。

 そこには、まるで僕の懸念をなぞるように。

 ――真剣な顔をした銀騎士のお姉さんが、ソニアの前に跪いていた。


 そうだ。そうなのだ。

 現実と同じなら、そろそろ北へと旅立つ時期。

 そうなってしまえばこのお肉とも。この楽園とも――お別れなのだ。


 別れを悟った僕は、最後の晩餐とばかりに味覚に――“僕”のかぶり付くお肉の味に集中する。

 本当に夢なら覚めないで欲しい。


「――――しました」


 ――そんなことを考えていたから。

 僕は銀騎士のお姉さんの言葉を聞き逃していた。否、聞こえないフリをした。

 本当は“僕”には、はっきりと聞こえていたのに。


『――ねぇお姉さん。それって――どういうこと? 大魔は――大魔はどうなったの?』


 “僕”の言葉が部屋の中に響く。

 お姉さんからの返答は――ない。


 もちろんお姉さんには“僕”の声は聞こえないんだけど。

 でも――“僕”が言いたかったことは伝わっていたと。そう思う。


 それでもお姉さんが無言だったのは。多分――



 ――――――


 その日の聖殿は。

 ざわめきに包まれていた。


 そんな中。

 “僕”とソニアとアニキ達は、聖殿内の一室に集まっている。

 外のざわめきが何も聞こえない静寂に満ちた部屋。

 もちろん、いつものお肉部屋とは違う部屋だ。


 そして“僕”達の目の前には――白い仮面を被った人が椅子に座っている。

 多分――棒のようにガサガサで痩せた腕や足をしてるし、老人だと思う。

 その横に控えるのは、厳つい銀髪銀鎧のおじさんだ。

 ――どこかで会ったような気がするけど思い出せない。銀鎧だし、ソニアの隣に居るお姉さんと同じ銀騎士だと思うけど。


「状況は聞いての通り」


 ――と。

 銀髪おじさんが沈黙を破る。

 聞いてないとか、到底言えそうにない威圧感だ。そもそも言えないんだけど。


「――我々はこれから第2次討伐隊を編成する。しかるに中核を担う者を新たに充てる必要があるのだが――」


 おじさんが仮面老人の座る椅子の背に手を置いた。


「此度は、託宣の巫女様と我々聖域の騎士が中核を務める。そして天運の巫女様とそなた達には――我々と共に御越し頂きたい」


「僕は反対です――ソニアはまだ子供。『祈り』のスキルが使えるようになったとはいえ、まだ魔物の――それも大魔との戦いには。私達だけで」


「――承知した。では、シャルレノよ。引き続き巫女様の――」


「待って下さい!」


 銀髪おじさんの声をソニアが遮る。

 皆の目がソニアに向いて――


「私も――行きます。みんなの後ろで良いから――お願いです」



 ――なぜだろう。

 この()の中で。

 ソニアの感情は伝わってきたことはないのに。伝わってこないはずなのに。


 下を向くその横顔が――悲しく見えるのは。


当初想定より長くなってしまってますが、本エピソードはあと3~4話で終わる予定です。

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