189.見えたもの
夢の中では、既に1ヵ月が経過していた。
もちろん、体感時間はせいぜい1時間程度。
場所も時間も飛び飛びで、一貫性がまるで見えない。
今だって、なぜか一竜で玄関ホールに突っ立っているし、まるで質の悪い総集編を見せられている気分だ。
だけど。
これだけの時間があれば、幾らかは分かることもある。
それは――この夢の設定だ。
今の僕は体も何も動かせなくてとっても暇なので、現実と夢の違いを整理してみたんだけど。
――思った以上に違う部分がある。
まず一つ目。
ソニアと周りの人達との係わり方が違う。
ユニィとアリアさんがいないし、アニキ達がソニアの家族になってるし――“僕”なんかユニィじゃなくてソニアと契約している。
そして二つ目。
一つ目とも関係するけど、“僕”と周り――特にアニキ達との係わり方も違う。
まぁアニキが言ってたように、家族として扱われているということなんだけど。
脚竜族殺し――改め無口おじさんも、視線以外は良い人っぽいし。
三つ目は――
「さあ行くぞ騎竜。今日は王都外壁を一周だ」
そこまで考えたところで、背後から声を掛けられた。
振り向くまでもなく、暴走犬お姉さんだ。
『今日も僕が勝たせてもらうからね』
「ふっ。何を語っているか分からないが想像は容易い。しかしな――今日は勝たせてもらうぞ。スキルなしの条件とはいえ、器用貧乏なはずのお前に、続けて敗れる訳にはいかないからな」
振り返った“僕”の額にお姉さんが人差し指を当てる。
『器用貧乏じゃないよ! 万能だよ!』
“僕”の声は空しく響いているけど――
そう、三つ目。
それは“僕”のクラスが『ハイラプトル』だった――ということだ。
確かに、元々僕が目指していたのは『ハイラプトル』、そしてその先の『オリジン』だった。
だけど――今となっては『ゼノラプトル』である自分に慣れてるし、水面等で“僕”の姿を見ても違和感しか湧いてこない。
僕が心の中で頷いている間にも。
“僕”と犬お姉さんはさっさと出掛けることにしたようだ。
ふたりで玄関の扉を潜って――
「あら、あなた達。もしかして――外壁の外側まで行くのかしら?」
外に出る前に呼び止められてしまった。この声は――毒術お姉さんだ。
“僕”が振り返ると、そこにはやはり。腕を組んでこちらを見る毒術お姉さんが居た。
「それでしたら、ついでに傷薬に使える薬草の採取をお願いできないかしら?」
「断る。例えヤーデ姉の頼みでも――」
「あらあら仕方ないわね。――そう言えば、今日の夕食の担当は誰だったかしら?」
「喜んで引き受けよう!」
突然大声を出して頭を下げた犬お姉さん。
“僕”が見たその目は、なぜだか大きく開かれていた。
「あらそう? それじゃお願いねミニア。――――こんな状況だから。ごめんなさい」
――こんな状況。
これが四つ目。
この前、アニキ達が言っていた北部の運送ギルドの話だ。
色々聞こえてくる話では、魔物の増加によりポーターの死傷者や行方不明者が相次いだ結果、王国北部では物流が完全に止まってしまったらしい。
――あっちの運送ギルドには知り合いがたくさんいる。
だから。
これは夢。夢なんだけど、やっぱり良い気持ちはしない。
鬚じいちゃんにロゼばあちゃん。ジョディさんに脚竜会の皆。
彼らに何かあったことを想像するだけでも、暗く沈んだ気持ちになってくる。
僕がまたモヤモヤした気持ちになっていると。突然。
今度は玄関の外側――“僕”の背後から勇者のお兄さんの声が聞こえた。
「皆さん――依頼ですよ」
「あら? この子たちは今から、私の為に薬草を採取頂く予定となってますの。少し後にして頂けませんか?」
「北部の町シュトルツまでの商隊の護衛です。これならあなたも、傷薬の原料を仕入れできるでしょう?」
勇者のお兄さんの言葉を聞いて何かが引っ掛かる。
――ん? シュトルツ?
何かどこかで聞いたことあるけど――どこだったっけ?




