188.不吉な予感
気付いた時には1週間が過ぎていた。
――うん。これは比喩じゃない。
本当に“僕”の目が閉じて開いたと思ったら、1週間後だったのだ。
自分でも何が何だか分からないけど、僕の主観ではそうだったんだからしょうがない。
なにせ、1週間後に帰ると言って出掛けたアニキが、10秒後に「お? 出迎えか?」とか言いながら帰って来たからね。
何だか、机の下から1時間寝かせたお肉が出てくる話みたいだ。
――うん。
どうせなら似た語感だし、アニキよりお肉の方が良かったのに――
「――遅い」
突然背後から聞こえた声。
どうでも良いことを考えていた僕は――聞こえてきたその低い声に、思わず死を予感した。
完全に――油断していた。
アニキと勇者のお兄さんが出てくるなら、当然この人も出てくるはずなのに。
自分の軽率さを呪う。
――でも。
まだ落ち着いて対処すれば大丈夫。
ゆっくりと。視線を合わせないように、ゆっくりと。
刺激しない様にそーっと振り返れば良い――
《――って。何やってんだよ!》
僕の思いとは逆に、“僕”の体は素早く後ろを振り返る。
あまりにもの不用意な動きに、思わず声が出ないのも忘れて叫び声をあげようとしてしまった。
あの目と目が合ったら死んじゃうかもしれないんだよ? 全く我ながら信じられない。
そんなことを考えている間に。
“僕”はいつの間にか脚竜族殺しに話しかけていた。
『兄さんを責めないでよおじさん。最近魔物がとにかくいっぱいで大変なんだよ!』
いやいやいや。
ちょっと待てよ“僕”。
聞こえないからといって、この人にそんな口の利き方したら駄目だろ?
長い――沈黙。
その沈黙の長さに徐々に焦りが募っていくけれど――
脚竜族殺しの顔を良く見てみると、こちらには一瞥もくれずにアニキの方に顔を向けていた。
どうやら――命拾いしたようだ。いくらこれが夢だからといっても、死にたくはないからね。
その時、僕は安心した。
そう。安心してしまった。
――だから。
アニキが言ったことのその意味を。
すぐには――理解できなかったんだ。
「わりぃな。だが、そこのガキもキュロキュロ言ってる通りでよ。ここんところ、いくら近場の下見つっても楽じゃねぇんだよ。――お前も北部の運送ギルドの話は聞いただろ?」
「――ああ」
「ま、そういうこった。俺はあんな風にはなりたかねーからな」
でもね。
これは夢だから。
きっと夢だから。
そう思わないと――僕は。




