184.夢に見た幸福
――――眠い。すごく眠い。
一夜明けて早朝。
周りを見渡せば黒。黒黒黒。
拠点周囲に設けた篝火の外側は未だ――闇に包まれている。
いつもの僕なら確実に微睡んでいる時間帯だ。
だけどそんな中。
大魔と実際に戦う精鋭部隊の人達は、黒の遺跡へと消えていった。
その中には当然、アニキとその仲間の勇者のお兄さん達も含まれている。あと性悪悪魔巫女も。
銀鎧を着た騎士の人達も、銀騎士のお姉さん以外は行ってしまった。
何も見えない遺跡の門をいつまでも見つめながら。
僕は思う。
――寝床に戻って二度寝しよっと。
――――――
痛い。とっても痛い。
痛む背中に思わず集中が途切れそうになる。
『ちょっと。しっかりしなさいよ』
元凶が平然とした顔で僕を叱咤する。
――相も変わらず理不尽だ。
『そんなこと言ったってしょうがないだろ? 痛いんだから』
僕が抗議したら下を向いて何か呟いたけど、碌でもないことに違いない。
何だか最近、尻尾攻撃の威力が上がっている気がするし――今まで以上に警戒しないと。
そんなことを考えながら、途切れてしまった『サーチ』の術を再使用する。
ただ――今僕達が警戒すべき敵は他にも居るからね。
僕の脳裏に、ユニィから伝え聞いた話が蘇る。
敵の一つはもちろん魔物。
僕達後方支援部隊の役割は、精鋭部隊の背後を守ることだ。
ここまでと同じ様に、この場所に近付く魔物を見つけて排除する――らしい。
『やっぱり、こっちに近付いてくる魔物は居ないね』
何故だか、今のところそんな魔物は居ないけど。
というか、遺跡の中にもあまり居ない。なんでだろ。
「良かった。こっちも順調に進んでるよ」
そしてもう一つの敵は――もちろん性悪悪魔巫女だ。
精鋭部隊の動向を確認して、撤退し始めるとかの異常があった場合には救援部隊を派遣する――らしい。あんなに足が遅くて間に合うのか分かんないけどね。
――まぁ、それはともかく。
そっちも今のところ順調なようだ。
まぁ、先遣隊が残した目印を頼りに進んでいるとかいう話だし、当然――なのかな?
「隊長さんに報告して来たよ」
なんてことを考えている間に、ユニィが『サーチ』結果の報告を終えたようだ。
『それじゃ、テントに戻っておやつにしようよ』
僕はここぞとばかりに提案した。
早朝から断続的に『サーチ』していたけど、僕の腹時計ではもう10時頃。
そろそろおやつ休憩の時間だよ。
多分。
――――――
『ねぇ。またこれなの?』
『しょうがないだろ? 日持ちするお菓子にする必要があるんだから。嫌なら食べなきゃ良いだろ』
テントに戻っておやつの時間にしたんだけど――サギリは相変わらず一言多い。
まぁ、確かに。僕も少し飽きてきたけど。
本当。なんで樹蜜を買い忘れちゃったんだろ。
「お姉ちゃん居る?」
ソニアが現れたのは――
楽しいはずのおやつタイムが微妙な空気になってきた。
そんなタイミングだった。
そしてその手には――
『あーっ! それ樹蜜!』
夢にまで見た樹蜜。
その瓶が握られていた。




