183.終幕の門
振り返れば。
岩山を穿つように据えられたその門は、見上げるほどに高く。
門を通して見える内部は、早すぎる日没に闇色に染まっている。
『ここが――』
思わずその言葉を中途で飲み込む。
そう。この場所。この遺跡こそが、大魔の潜む地。
そして――
「リーフェ! そんなところでサボる暇があるならこっち手伝って!」
『分かったよ。今行くよユニィ』
僕達は今。その遺跡の前の開けた場所に、拠点を築いている。
実際に討伐に参加する人達を物資等の面で支援し、その背後を守るため――ということらしい。
物資なんて、僕がこの前立ち寄った町まで1時間も走れば手に入ると思うんだけど。
――うん、やっぱり。
大人数での行動は面倒だね。
もちろん、テント設営や柵の設置等、ほとんどの作業は一緒に来た兵士の人達がこなしている。
とはいえ。僕達もそれを黙って見ている訳にはいかない。
僕達も後方支援部隊の一員なのだ――――って、ユニィが言い出したから。
本当、ユニィは真面目なんだよね。そこが良い所でもあるんだけど。
そうして。
柵の材料とかの運搬を手伝い始めて3時間。
木杭を引っ張るのが、何だか楽しくなり始めた頃。
ようやく――拠点は完成した。
これで魔物に襲われても、簡単には突破されないだろう。
それにしても――
完成した拠点を背に、再び遺跡を眺める。
『日没が異様に早いと思ったけど――もう真っ暗だね』
秋も深まって、昼の時間が短くなり始めたとは思ったんだけど。
それにしても、日が沈むのが早すぎる気がする。
「そうだね。やっぱり、冬も近いし北の方に来てるから夜が長いのかな」
『それだけじゃないわ。この辺りの地形――窪地になっていて、そもそも日の光が届きにくいのよ』
背後からのユニィの声に続いて、珍しくサギリが横から話に加わる。
どうしたんだろう――とは思ったけれど。多分。
サギリも緊張しているのだ。僕達と同じ様に。
「――そっか。だからこんな所に「黒の遺跡」があるんだね」
ユニィからも張り詰めたような。それでいて怖いという感情が伝わってくる。
何か喋っていないと落ち着かない。
多分そういうことなのだ。
かくいう僕も――
『そうだね。「黒の遺跡」だから「闇」とか「死」とか。そういうものに溢れてるもんね』
――――あれ?
急にふたりが静かになったので、背後を振り返った。
――ユニィの顔が何だか歪んでいる。
――サギリがもの凄い形相で僕を睨んでいる。
『何、不吉な事言ってんのよ!』
思いっきり背中を叩かれた。
これでもかって叩かれた。
サギリは今日も理不尽――じゃないか。今日この日ばかりは。
――明日の早朝。
長かったこの旅の終幕の時。
大魔の討伐に向け、選ばれた精鋭達が――遺跡の門を潜る。




