182.ひとは必ず何かを忘れていく
『大丈夫? みんな買い忘れは無い?』
僕達は今。
目的の遺跡――その手前。
最後の補給場所となる、ゼ――何とかの町を訪れていた。
「もちろん。必要なものは全て揃えたよ」
『当然ね。でも――そういう貴方はもちろん大丈夫なのよね?』
――愚問だね。
僕は口の端を少し上げた。
『大丈夫に決まってるだろ? 少し多いけど2週間分は買い込んであるよ』
そのまま皮袋の口を広げて中身を見せる。
『――貴方に聞いた私が愚かだったわ』
うんうん。
やっと分かってくれたようだね。サギリも。
それじゃ、集合場所に――あれ?
「どうしたの? リーフェ」
――何かを。
何かを忘れている気がする。
『やっぱり、何か忘れものかしら?』
『そんなわけない――だろ』
頭を左右に振って、そのモヤモヤとした何かを振り払う。
多分気のせいだよね。多分。
――――――
終端の町ゼルツ。
薄灰色のその街並みが、私の記憶を撫でていく。
旅立ちの時に決めた決意は、今も時折揺れていて。
気付けば、開くと決めた右手を眺めている私がいて。
――耐え切れずに目を上げる。
そんな私の視界に。
それが映ったのは偶然? それとも必然?
皆で囲んだ、あの日の記憶が鮮明に蘇る。
私は手を伸ばした。
――まるで誰かに手を引かれるように。
――――――
『おやつー。おやつー。おやつの心はー。おやつだけが知ってーいるぅー』
こんな時でも、相変わらず気の抜けた歌を歌うリーフェに。
思わず頬を緩めてしまう。
気付けば肩の力も抜けていた。
隣のサギリは、相変わらずあきれたような顔をしているけど。
――こんな時だからこそ。
いつも通りのリーフェの存在は貴重。私はそう思う。
『ユニィも一緒に食べようよ。ついでにサギリも。さっきの町でいっぱい買ってきたんだ』
リーフェが広げた皮袋の中には、棒状の焼き菓子が大量に入っている。
リーフェの話では、どうやらプレッツェルの形を棒状にしたものらしい。
本当、いつの間にそんな情報を仕入れたのか分からないけど――この知識、さすがはリーフェってところかな。
「うん、ありがと。一緒に食べよ」
『――そうね。私も頂くわ』
一言断ってから手を伸ばして――その端を口に含む。
――あれ?
『ねぇ、うっかリーフェ。貴方、忘れものはないって言ったわよね?』
サギリの声が低い――けど。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、その気持ちが分かってしまう。
『何言ってんだよ。サギリ。文句があるんなら食べなきゃ良いだろ? 食べな――』
少し不機嫌そうな声でリーフェが返して――焼き菓子を口にした途端。
その言葉が止まる。目が大きく開く。
『――そういえばこれ。あの町特産の樹蜜を付けて食べるんだった』
――こんな時だからこそ。
いつも通りのリーフェの存在は貴重。私はそう思うことにした。
本エピソードはここまで。
次の第5エピソードから5章中盤です。




