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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第五章 開花
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179.単純に考えた方が良いこともある

『ごめんユニィ。今の無しだから――ちょっと待ってて』


「え? それってどう――」


 我に返った僕はユニィにそれだけを告げ、返事も待たずにその場を離れる。

 目的地はただ一つ。こんな時に頼れるのは――




『アニキー!』


「あ? 何だお前。これから出発なんだろ。さっさと行って来――」

『お姉さんが犬みたいにびゅーんと暴走して僕もぴゅーんと追走してどっか行っちゃうからアニキにしか救えないと思うんだよ』


 そう。困った時のアニキ頼み。

 僕は出発準備をしているアニキの元に駆け込んだのだ。

 もちろん勝算があっての事だ。

 アニキは暴走犬お姉さんの仲間だから扱いにもなれている――はずだからね。


 ――ということで。

 胸を張って解答(こたえ)を待ってたんだけど――

 そんな僕を見て、アニキが溜め息をついた。


「とりあえず落ち着け。いつにもまして、何言ってんのか分かんねぇんだよ」




「――ああ。そういうことか」


 アニキが頷く。

 四度目の説明で、ようやく分かってくれたみたいだ。


『そうなんだよ。アニキなら、犬お姉さんが暴走した時にどうすれば良いか分かるよね?』


 多分何か攻略法があるはずなんだ。

 そう、同じパーティーの仲間だけが知る裏技的な何かが。

 じっと見つめて待つ僕に向けて、アニキが口を開く。


 ――さあ。その解答(こたえ)を――


「――放っとけ」


 ――え?

 まさかの回答(こたえ)に耳を疑う。

 だけど――そんな僕を見たアニキは繰り返す。


「――放っときゃ良いんだよ。あのバカは」


 ()()を放っておく?

 ――確かに僕にはその発想は無かった。

 だけど、本当に放っておいて良いの?


「あらあら。お困りの様ね」


 アニキの言葉に悩んでいると、突然。

 背後から声がした。


 振り向くと目に留まる白ローブ。

 この白ローブには見覚えがある――毒術お姉さんだ。

 お姉さんは僕の目を見ると、何かを持った右手をこちらに突き出し、口を開いた。


「どうせ、あの()の暴走に困っているとかそういう話でしょう? うふふ。それなら、眠り草から抽出したこの鎮静薬の蒸気を嗅がせれば大人しくなるわ。ああ、食事に混ぜるのも――」

『ありがとうアニキ! とりあえず頑張ってみるよ!』


 ――全身で感じる悪寒。

 僕は全力で逃げることにした。



 ――――――


 ――うーん。


 とりあえず。

 ユニィには『もう少し頑張ってみる』とだけ告げて、暴走犬お姉さんと一緒に周囲の警戒に出たんだけど。

 正直――本当にアニキの言葉通りに放っておいて良いのか。まだ迷っている。


 そもそもペアを組んでいるのも片方に何かがあった時の為なんだろうし、放っておけば良いんなら兵士さんでも良いんじゃないの?

 ――とか。

 余計な考えばかりが浮かんできて、思考が纏まらない。整理ができない。


 だけど。時は進んでいる。魔物は僕の思考を待ってくれない。

 警戒を始めて10分もしない内に『サーチ』に魔物の反応があった。

 それも、こちら側の担当範囲にだ。


『あっちだよ。距離は2km』


 『サーチ』でユニィに合図を送ると共に、犬お姉さんに片手で方向と距離を示す。


 今までなら、このまま一緒に走っていったところだけど。

 今日の僕は。走り去るお姉さんの背中をそのまま見送る。


 ――僕はアニキを信じる。

 そう決めたんだ。





 ――3分後。


「おい索敵担当! 次の魔物はどこだ!」


 お姉さんは勝手に戻ってきた。




 ――魔物を全部倒したら、(索敵担当)のところに戻ってくる。

 その単純なことに気付いたのは、その日の終わりだった。


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