178.後悔は後からやってくる
「できた。できたんだよ! リーフェ!」
顎を地面に着けて休憩する僕のところに。
跳ねるようなユニィの声が近づいてくる。
感情が伝わってくるのを待つまでもなく、喜びが声に乗っているのが分かった。
「ねっリーフェ――って、どうしたの?」
僕の顔を見たユニィの表情が変わる。
うーん。顔に出てたのかな。
いや、単純に僕の感情が伝わったのかも。
だって――
『どうもこうもないよ。もう僕も我慢の限界だよ!』
僕は今。
とってもイライラしてるから。
「えーと。やっぱり、上手くいってないの?」
ユニィの表情がまた変わる。
悲しみの感情にも気付いたけど――
『そうだよ。あの人無茶苦茶なんだよ! なんてったって、サギリ以上なんだ――から』
その時にはもう――声を上げていた。
慌てて何とか取り繕おうとしたけど、頭の中に言葉が思い浮かぶよりも先に――ユニィの元気のない声が届いた。
「――ごめんね。リーフェなら大丈夫だと思ったんだけど」
――そう、そうだったよ。
この話はユニィから――
俯くユニィに声を掛けることもできずに。
僕は1週間前のその時の事を――思い返していた。
――――――
「ねぇリーフェ。お願いがあるんだけど」
休憩も終わり、さあ周囲の警戒だ――と思って立ち上がったら。
後ろの方からユニィの声が近づいてきた。
――何だろう。
振り向いてから、ユニィの後ろに他の人が居るのに気付いた。
――あれ? 勇者のお兄さん? それと――暴走犬お姉さんも?
これが漫画なら、僕の頭の上には「?」が3つぐらい浮かんでいたんだろう。
漫画って何なのか自分でもよく分からないけど、咄嗟にそう感じてしまう程の不思議な組み合わせだった。
「あのね。今日からリーフェにはね。ここにいるミニアさんとペアを組んで欲しいんだ」
困惑する僕にユニィが追い打ちを掛ける。
もう1つ「?」が増えてしまった。
――えーと。ミニアって、誰?
多分どっちかだと思ってユニィの後ろの二人を交互に見ていると、勇者のお兄さんが一歩前に出た。
お兄さんがミニア――だったっけ? 少しだけ違和感があるけど――
「リーフェスト君ですね。僕からもお願いします」
何だかキラキラした笑顔で、お願いをされてしまった。
そのまま下げられた頭に、違和感も忘れて思わず頷きを返してしまう。
『うん――僕で良ければ』
――10秒後。
僕の頭の中に後悔という言葉が浮かんだ。
――今度から、人の名前はちゃんと覚えておこう。
『何やってんの犬お姉さん! そっちは向こうの鉄仮面さんの担当だって! ちょっと待ってよ!』
――10分後。
目の前の現実に、後悔が深まっていた。
『どこに行ったのかと思ったら、こんなとこに居たの? もう戻――あっ! なんでそっち行くの!? こっちだよ! こっち! 聞こえてなくても分かるでしょ!』
――30分後。
目の前の惨状に、後悔したことすら忘れていた。
ねえ、こんなの――ペアじゃないよ。だって本当のペアなら――
本当のペアなら?
何かが引っ掛かった。引っ掛かった――けど。
結局、何が引っ掛かったのかは今でも。
思い――出せない。




