176.白薬のヤーデ
目の前に積まれる大小の草束。
もちろん小さいのが薬草の束。大きいのが薬草じゃない方の束だ。
「あらあら。そんなに気落ちしなくても良いのよ? こっちにも使い道があるんだから。ほら、摺り下ろして麻酔薬にしたりとか。ね?」
俯いているユニィに、柔らかい雰囲気の白ローブのお姉さんが声を掛けている。
どうやら、薬草採取はこの人に頼まれたらしい。
「そうだよお姉ちゃん。ナエシ草だってこれだけとれたんだから十分だよ。――ね? ヤーデさん」
「ええ――もちろんよ。これだけあれば、この間の戦闘で使った数以上の原料になるわ。道中で不足することは無いから安心して良いわよ」
ソニアの言葉に、お姉さんが頷いている。
だけど――ユニィは俯いたままだ。悲しいという感情が伝わってくる。
うん。確かに――あの薬草の束は、ほとんど僕とソニアで採ってきた分だからね。
だけど――ね。
『ユニィ。ひとにはね――向き不向きというのがあるんだよ。眠り草だけ選り分けて採るとか――それだって並大抵の才能じゃないよ。それもこんなに』
僕は眠り草の束を見る。
流石の僕にもこれはおかしいと分かる。
何がどうしてこうなるのかは――考えれば考えるほど訳が分からないんだけど。
もしかしたら、ユニィの『連環』スキルが影響しているのかもしれない。そんな気がしてきた。
鑑定おじさんの鑑定結果でも不吉そうなことが書いてあったし。
ユニィはまだ「でも」とか言ってるけど――
『だとしても、ユニィが悪いんじゃないよ。スキルが悪いんだよ。スキルが』
そういうことにしておいた。
――――――
それにしても。
ユニィが落ち着いたところで、改めて僕は白ローブお姉さんの周りに置かれた道具を見る。
砕いてすりつぶす為の変な形の器と棒。
煮る為の変な形の鍋と蓋。
混ぜる時に使う変な形のナイフ。
とにかく――変な形のものがいっぱいだ。
お姉さんは術師だって聞いてたけど――こんな道具を持ってるなんて、まるで薬師みたい。
不思議だ。
「変な顔してるけど――ヤーデさんの二つ名は「白薬」だからね。術師だけど毒も薬も扱いは完璧! ――なんだよ。キュロちゃん」
僕がへんてこ道具を前に首を傾けていると、歯を見せて笑ったソニアが説明してくれた。
なぜかちょっと胸を張っているようにも見える。
「毒も――なの?」
突然。真横から声がした。
さっきまで落ち着いて――なんならその前までは落ち込んでいたはずのユニィが、いつの間にか僕の横に立っていた。
「そうよ。毒と薬は表裏一体。毒も使い方次第では薬になるし、逆に薬も毒になるの。それにね――」
お姉さんが目を細めながら、「うふふ」と笑い声を漏らした。
「――私の使う術。『毒術』だから」
――えーと。
お姉さんの言葉を聞いたユニィはそのまま固まっている。困惑の感情も伝わってくる。
ソニアは分かっているのかいないのか、笑顔のままだ。
僕は――
――もしかして、脚竜族がこの人と契約したら、幻の『ピンクラプトル』になれるんじゃない?
頭によぎったその思い付きに。
――ちょっとだけ興奮していた。




