171.そして今夜は話し合い
慈愛の巫女。
それは神の加護に依りて傷を癒す、僕らの希望。
それは優しげな笑顔で心を癒す、慈愛の象徴。
そしてそれは――僕の幸せを奪おうとする、笑顔の仮面を被った悪魔。
『僕がいつまでも――黙っていると思ったら大間違いだよ』
一度ソニアを訪ねてきた彼女に、砂糖たっぷりのお菓子をあげたのが間違いだったのだ。
それ以来、彼女は毎度のように――僕のおやつを狙ってくるようになった。
「ねぇ。ソニアちゃん? お姉さんにも――お菓子分けてくれないかな? 今日は『祈り』すぎて少し糖分が足りないの」
悪魔巫女が僕を無視してソニアに絡みはじめる。
まぁ、僕の声が聞きとれていないだけなんだけど。
でも――ね。
――今日は。
「この袋が今日のお菓子かしら? 少し貰うわね」
悪魔巫女が口元に手を運ぶ。
――思わず。
笑みが零れた。
悪魔には――地獄の業火がお似合いだ。
――――――
僕の足元には今。
蹲る悪魔巫女が居る。
「み、ず――みず――を――」
多少水を飲んだぐらいで治まるわけがない。
何の警戒もせず、激辛おかきを口に放り込んだのだから。
『これに懲りたら――人のおやつには手を出さないことだね。もう二度と』
何だか、背中の方から視線を感じる気がするけど。
悲しそうな感情も伝わってくる気がするけど。
ただの気のせいだろう。多分。
――っと。そんなことよりも。
そろそろ僕もおかき食べようかな。
確か、ミルクとかを先に飲んでおけば――
「ごちそうさまっ!」
――え?
その声に振り向いた僕が見たものは――
「私、ここのお店のおかき大好きなんだ!」
またも空の袋を逆さにして振る――ソニアだった。
――え? なんで?
納得がいかない。いろいろと。
――――――
『ねぇ。ユニィ』
騒ぐリーフェ達から離れたところで一人。ユニィが空を眺めている。
私が声を掛けると、ユニィは目線を下ろしこちらを振り向いた。
『今日もこんなところで野営だし――本当にこのままで良いのかしら?』
私の問い掛けに、ユニィは何も答えない。
――私は構わずに言葉を続ける。
『私達だけなら――もっと早く移動できるわ。先に進んで、目的地に一番近い町で待っていた方が安全――』
気付くとユニィから。辛そうな感情が伝わってきていた。
いつの間にか、その顔も下を向いている。
――ねぇ。何故なの?
私は続ける言葉を失ってしまった。
「――本当は私もね。そうしたいんだけど」
そんな私に対して。
ユニィが俯いたまま口を開く。
「ソニアがね――「それはイヤ」って」
『どういう――こと?』
「理由は私にも話してくれないの。でも――「おねぇちゃんごめんね」って」
ユニィの肩が――震えていた。
焦り、寂しさ、悲しみ――感情が渦を巻いているのが分かる。
でも、その根底にあるのは――
『そうね。それなら――』
少し短いですが、第2エピソードはここまでです。




