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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第五章 開花
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170.冷たい現実

 その話を聞いた時から。

 僕には疑問に思っていることがあった。


 ――彼は一夜にして砂漠に都市を作り上げた。


 砂漠の中。一夜にして現れた都。

 そして――その逸話と対応するかのような一夜湖(ひとようみ)の都。


 ではいったい。

 ()()彼は、それを為したのか?


 その問いに対して僕()が出した仮説の一つ(答え)は。



『昏き底より――来たれ! 深淵の門(アビスゲート)!』



 僕は()()に合わせ、その術を発動させた。


 すっかりと陰った空に。

 紫光が伸びる。丸い影が映り込む。

 そして――影から影が。(かた)無き影が溢れ出す。


 目を瞑り。激しく響く水音(みなおと)に耳を傾けた。


 ――そう()は。

 ()を退けるために、自らの周りを水で囲ったのだろう。

 恐らくそれが――一夜湖の正体なのだ。



 ――――――


「ねぇ。リーフェ」


 頭の上からユニィの声が聞こえる。


「リーフェのおかげで、魔物を撃退できたんだし――ね? 元気出して?」


 ユニィが僕を元気づけようとしてくれている。

 その気持ちが、言葉だけでなく感情からも伝わってくる。

 本気で心配してくれているんだと思う。


 ――だけどね。そういう問題じゃないんだ。


 僕は軽く首を振ると、顔を上げて周囲を見回した。


 目の前にあるのは、眉毛の下がったユニィの顔。

 少し離れた位置には、円形に陣を組んだままの兵士達。

 そして、兵士の奥に見える――氷の塊。


『――これじゃない。これじゃないんだよ』


 僕は溜息を吐くと、再び下を向いた。


 僕の想定では。

 天界の門(ヘブンズゲート)と同じ原理を使って、この場と深海と繋げ大量の水を導くことで、周囲を魔物ごと水没させることができる――はずだったんだけど。


 結論から言うと、単純に――水の量が全く足りなかったのだ。


 1分程、円陣の周囲を回すように流してみたけれど、全て周りに流れてしまって溜まる気配すらなかった。

 それに、想像していたより流量も少なかった。

 以前、湿原の沼を干上がらせた時はもっと勢いが良かったのに。


 幸いにも、導かれた水を起点にして騎士達の氷術の威力が大幅に上がったから、魔物は撃退できたんだけど――

 それを褒められたとしても、僕としては手放しでは喜べないよ。



 なおも俯く僕の背中に、軽い衝撃が走った。


『何落ち込んでるのよリーフェ。貴方が失敗するのなんていつもの事でしょ?』


 ――何だよ。ほっといてよ。


 無視を決め込んでいたけれど、二度三度と。徐々に強くなる衝撃。

 いやいや。痛いから。痛いから。痛たたたた――


『何すんだよ! 痛いだろっ!』


『夕食よ』


『それならそう言えば良いだろ!』


『あら。言わなかったかしら』


 言ってないだろ――という言葉は飲み込んだ。

 それこそ言ってもしょうがないから。


 それよりも――今日の夕食ってなんだったっけ?



 ――――――


 ――で。

 結局何でこんなことになってるんだろう。


 僕は目の前の()を睨みつける。


 ――いや。

 自分の口元が緩むのが分かる。

 そんなこと――考えるまでもない。


『また僕のおやつを取りに来たんだな! この性悪悪魔巫女めっ!』


 今日こそは――お前の思い通りになんてさせないからね。




 ――――ところで。悪魔ってなんだっけ?



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