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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第五章 開花
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169.戦況観測

『――あれ?』


 町を出た僕は、元来た道を戻っていたんだけど――

 どこまで行っても討伐隊の人達が見当たらない。


 行き違いになったのかな?

 ――と思ってユニィを『サーチ』してみたけど、反応はもっと南。


 さっきの休憩場所と町との中間地点はもうとっくに過ぎてるし――

 流石にここまで遅いということは考え難い。

 だとすると。何かが――あった?


 刹那。


 嫌な想像が。悪夢が。

 僕の脳裏に浮かんでは消える。僕の全身を震わせる。


 それは例えば。昼食が痛んでいて、みんなでお腹を壊したとか。

 それは例えば。おやつが足りなくなって、暴動が発生したとか。

 例えば例えば――他に思い浮かばないけど、なんかそんな感じのあれとかこれとか。


 僕は後脚に力を込めた。

 体の震えを抑え込むように。悪夢を振り払うように。

 紫光の先を見つめて――強い決意を胸に秘めて。



 例えどんな悲劇が待ち構えていたとしても。

 ――僕の幸せは。もう決して手放さない。



 ――――――


 影が伸びる。

 空は青から茜へと。茜から藍へと。勾配を映しだしている。


 ()()()()までは。

 たったの数分が永遠にも感じられて。そして。


 ――見えたっ!


 討伐隊は、僕が出発した時と同じ場所にいた。

 ――いや。

 ()()いる。


 だって――


『何だよあれ!』


 遠目に見えるその場所は。小高い丘の上は。

 ――魔物達に囲まれていた。


 以前見たことのある狼型や猪型。幾らか見える大きな影は――熊型だろうか。

 無数に見える小さな影は、もはや何型かも分からない。

 影。走り回る影。倒れた影。暴れる影。蠢く影。影。

 まだその数を増している。


 ここからじゃ討伐隊は見えないけど――その中心で赤く燃えるように映える空が。雲が。

 皆の所在を。無事を――僕に信じさせる。


 ――ユニィ!


 一瞬の迷いを振り切って。

 僕は再び後脚に力を込める。力の限り跳躍する。

 蠢く影を縫うように。創り出した黒い穴を踏みしめて。暴れる影を飛び越えて。

 その狂騒の中へ。中心へ。その上空(うえ)へ。


 上空からは戦況が良く見える。

 円陣を組む兵士。その中心で固まる竜車や馬車。その一つを指し示す紫。

 そして――迫りくる火球。


 ――って、もしかして僕狙われてる!?


 慌てて跳ねる向きを変え、迫る火球や矢を躱しながら地上(した)へと向かう。

 早く姿が見えるところまで降りないと――このまま撃墜されかねない。


『リーフェっ!』

「良かった――みんな! 魔物じゃないから攻撃しないで!」


 もうすぐ地上というところで、ユニィ達の声が聞こえた。

 どうやら無事だったようだ。

 そして、その声と共に僕への攻撃も止んでいった。


 ――何故か最後。地に脚を着ける寸前。背中に衝撃を感じたけど。




『――みんな大丈夫?』


「うん。兵士さん達が守ってくれたから」


 どうやら、後方支援部隊や直接戦闘の不得手な要員、荷車等は兵士が円陣を組んで守り、攻撃力の高い騎士や冒険者は円陣の外側で魔物を倒しているらしい。

 魔物達に対しても優勢に立ち回れていて、その役割分担が上手く回っているみたい――()()()()


 先程から見ていると、負傷して円陣の中に運び込まれる人が徐々に増えている。

 そして、その人達を一人癒しているのが――慈愛の巫女とかいう一見優しそうなお姉さん。

 ソニアじゃない方の「聖女の花芽」だ。


 お姉さんが負傷した人を前に祈りを捧げると、傷が見る間に塞がっていく。

 傷が治った人はまた戦いに戻っている――けど。

 どう見ても、お姉さんの顔色が悪い。


 このままだと――幾らも持たずに破綻するだろう。

 いくら強い人達が揃っているといっても、人は無限に動けるわけではない。

 魔物も無限に湧くわけではないけれど――我慢比べでは分が悪そうだ。


 揺らぐ松明の光の中で――僕はユニィの横顔を見る。

 その表情は理解できないけれど。伝わる感情は焦燥と悔しさで。



 ――だから僕は。



『――これ。預かってて』


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