167.三分の一の絶望
僕は目の前の敵に相対する。
その顔を。目を。瞳を――凝視して。
凄まじい圧力を全身に感じる。
――それでも。決して屈しはしない。
その決意を胸に。
だけど――
僕は思いを馳せる。
いったいなぜ。こんなことになっているんだろうか――と。
――――――
『何とかならないのかしら。これ』
サギリのこのセリフを聞くのは何度目だろう。
――確かに。
気持ちは分かる。ものすごーく良く分かる。
なんだったら、僕も今。
全く同じ気持ちだから。
何と言っても、出発から1週間。1週間も経つのに。
まだ200kmぐらいしか進んでいないのだ。
正直、一竜なら半日で。竜車を引いても1日も掛からずに走れる距離だ。
――だけどね。
僕は横目でサギリを睨む。
――今、竜車を引いてるのは僕なんだけど!
自分は自由に走りながら、愚痴だけを言うのは止めて欲しい。
本当に――何とかならないのかな。これ。
街道は未だ。見渡す限り続いている。
『それじゃ。よろしくね』
ようやく訪れた休憩時間。
ここから夜まではサギリが竜車を引く番だ。
「大丈夫だとは思うけど――気を付けてね。リーフェ」
『うん、もちろん。『サーチ』もちゃんと使うし、大丈夫だよ』
その隙に――と言ったら何だけど、これから次の町までひとっ走り。
ちょっとおやつの買い出しに――僕は行く。
本来であれば。
僕が天界の門を使ったら、マーロウが砂糖菓子を送ってくれるという、そういう手筈だった。
だけど――休憩のたびに呼び出してたら、『めんどくせー』というメモを最後に何も送ってくれなくなったのだから。まぁしょうがない。
こうなってしまうと、おやつは自分で運ぶしかないんだけど――この前の事がある。
おやつの運搬には、細心の注意を払わなければならない。特に匂いに対する対処は重要だ。
目に見えないそれ確実に遮断するために、僕は『ポケット』を使うことにした。
だけどその場合、一度に運べるおやつは1袋だけとなる。
――そう全然。全く以って。絶望的に――数が足りないのだ。
朝食のデザート。
休憩用のおやつ。
昼食のデザート。
休憩用のおやつ
夕食のデザート。
朝食と夕食の時は町中であれば確保可能として、問題は移動中の3回分。
これらの内の1回だけしかおやつを食べられないなんて――そんなことはあり得ない。いやあってはならない。
『それじゃ、行ってくるよ』
かくして僕は。
休憩を始めた他の討伐隊員達を尻目に――次の町へと走る。
世界の平和と僕達の幸福の為に。
僅かに絡みつく。その視線を――振り切って。




