164.天界の門
「おねぇちゃーん」
僕とユニィが今後の相談をしていると、少し離れたところにいたソニアが寄って来た。
その後ろには銀騎士のお姉さんもいる。
「ソニア。出発の合図はまだよ」
「分かってるよ。ちょっと遊びに来ただけ」
うん。今日もソニアはいつも通りだ。
でもね――
「――あのねソニア。これは遊びじゃないの。私には依頼があるし、あなたにも――やるべきことがあるんでしょ?」
ユニィの言う通り。
僕達は依頼の遂行中だから、ソニアの相手をしている暇はないのだ。
――まあ。
とはいっても、僕達が受けている依頼は「ソニア達を乗せて討伐隊に同行する」こと。
わざわざ僕達が指名されるぐらいだから、もしかしたらソニアの相手をすることも期待されているのかもしれないけどね。
「えー。でも今は休憩中でしょ?」
「「でも」じゃないの、休憩中でもやることはあるんだから」
そうだよソニア。やることがいっぱいあるんだよ。
サギリはどっか行っちゃったけど。
「むぅ。――それじゃあ、キュロちゃん!」
――僕もどっか行っとけば良かったかも。
『――しょうがないね。遊ぶ代わりに食後のデザートにしよう』
僕は覚悟を決めた。
もっと後まで取っておくつもりだったんだけど――ソニアを大人しくさせるためならしょうがない。
「デザートって――リーフェ。まさか、また砂糖を使ったお菓子を持ってきたの? 今回はダメって言ったでしょ?」
ユニィが横から口を出してきたけど――今回は安心してほしい。
『大丈夫だよ。このために特訓してきたんだ。見ててよ』
僕は、集中するために目を瞑る。
ソニアが「デザート?」とか言っているけど――無視して精神を集中する。
――イメージするのは天界の門。
――我々に幸福をもたらす理想郷への扉。
その姿を脳裏に描いて――目を開く。
『来たれ希望の光。天界の門!』
その言葉と同時に、僕の目の前に展開される術。
生成される黒い穴。走る紫光。
それを見届けた後――僕は振り返った。
とりあえず、顔を左斜め上15度に向けて。
「――キュロキューロ? それっておいしいの?」
――そういえば、ユニィ以外には僕の声は聞き取れないんだった。
僕はユニィに視線を向けた。
「えーと。それって『ポケット』だよね?」
――いやまぁそうなんだけど。そうじゃないんだよ。
ちょっと――悲しくなった。
『まぁ見ててよ。『ポケット』だけど、ただの『ポケット』じゃないんだよ』
いつまでも気落ちしていてもしょうがない。
違いを見せれば、みんなこの凄さを理解してくれるはずなのだ。
そう。訓練通りなら――もうすぐのはずだ。
僕の言葉に従い、ユニィが黒い穴を見つめる。
ソニアも真似して黒い穴を見つめる。
銀騎士のお姉さんは――少し後ろで控えている。
――と。
「おねぇちゃん! 何か出てきたよ!」
「ちょっと。何これリーフェ?」
――うんうん。どうやら驚いてくれたみたいだね。
頷く僕の目の前で、直径8cm強の黒い穴から――布切れが徐々に現れてきた。
そして――それが布製の袋に入った何かだと見て取れた時。
それは、地面の上にとさっと落ちた。
ソニアが駆け寄って、すぐに袋を拾い上げる。
「ソニア様! いけません!」
銀騎士のお姉さんが止めようとしたけど、もう遅い。
ソニアは袋の口を開いていた。
「お菓子だ! キュロちゃん凄い!」
うん。
褒めて。もっと褒めて。
とりあえず、顔はもう一度左斜め上15度に向けておいた。




