162.旅立ちの日
「それじゃ行ってくるね。お母さん」
「――ユニィ。絶対に無理しちゃだめよ。それからソニアの事も――」
「うん。分かってる。ソニアにも無理はさせないから」
――――――
聖殿からの指名依頼。今日はその旅立ちの日。
僕達が聖殿を訪れた時。
その広場には既に多くの人が集まっていた。
見るからに冒険者然とした風貌の人達。
整然と整列する兵士達。
さらには僕達のように、荷車を引く脚竜族も居る。
そして、その荷車の御者台にはポーター達が――いや、御者台に乗っているのはポーターじゃなくて兵士?
『思ったより多いわね』
「うん、そうだね。それとやっぱり――私達ちょっと場違いかな」
サギリとユニィが周りを見回しながら呟く。
確かに――ユニィみたいに「見るからに戦えなさそうな人」というのは、この場には見当たらない。
だけど――
『大丈夫だよ。別に僕達が魔物と戦う訳じゃないんだし。逆に守ってもらえるんじゃない?』
「でも――」
まだ、何かを言おうとしていたユニィの言葉が途中で途切れた。
「――あの人。もしかして」
ユニィが突然歩き出す。
僕は慌てて後を追おうとして――ユニィの向かう方向、視線の先の人物に気付いた。
あの人、確かどこかで。
――っ!? あの人は――
その姿、その雰囲気に僕の記憶が蘇る。
そう。確かあれは――ユニィの村の近くでゴブリンの群れが発生した時の。
僕は唾をごくりと飲み込んだ。
――そうか。この人も来てたんだね。
ユニィも思い出したんだろう。
どんどんとその距離を詰めている。
――でもねユニィ。ちょっと待って。
その人に不用意に近づいちゃだめだ。
だって、その人は脚竜族ぐらい視線で抹殺できる人だから。
『ユニィ!』
僕が叫んだ時には――ユニィは既に話しかけていた。
「お久しぶりです。あの時はどうもありがとうございました」
目付きが怖い人の隣の。なんか爽やかな人に。
――あ。
ヤバそうなのに目が奪われてて全然気付かなかったけど、良く見たらあの辺にいる人は全員見覚えがある。
『――ねぇ、リーフェ。誰あれ? ユニィの知り合いみたいだけど』
『えーと。あの人――以前話した勇者のお兄さんだよ』
一瞬、何でここにと思ったけど、良く考えたら当然だ。
聖国は、大魔討伐の為に『破邪』のスキルを持つ人達を集めていた。
今この場に。
大魔討伐隊に加わっていないなんて、余程の事情が無ければ有り得ないだろう。
そんなことを考えながら、僕達がユニィと話す勇者のお兄さん達を観察していると、周りが急に静かになった。
いつの間にか、ユニィ達も話すのを止めている。なんで?
『あれ? みんなどうし――っ』
突然、背中に衝撃が走る。
何すんだよサギリ――と思って横を向くと、サギリが僕を一睨みしてから前を向いた。
――何かあるの?
思わず釣られて前を向くと、釣られた先の視界には銀色の鎧を着た人達が並んでいた。
銀鎧の騎士。「聖域の騎士」だ。
そして、その前にいるのは純白のローブを纏ったお姉さんと――
「ソニア」
ユニィの声が聞こえた――気がした。




