16.披露
『じゃあいくよー。ポケット!』
僕は二竜の目の前で『ポケット』を発動する。言葉に出さなくても良いんだけど、その辺りはえんしゅつってやつだ。
僕達の目の前。三竜で輪になった真ん中あたりに黒い穴が現れる。
――どう?
ちょっと胸を張って二竜を見る。
『期待通り地味ね。流石リーフェね』
『ふーん』
二竜の反応は何だか微妙だ。
確かに見た目は地味かもしれない。だけど、僕も無策でこの場に来たわけではない。
『まぁ、見ててよ』
そう言うと、僕は傍らに置いていた4m程度の物干し竿を掴む。
そして、当然――
『どう? こんな長いものも入るんだよ?』
現時点で分かっている最大の長所。『どんなに長いものでも収納できる』ことを最大限に利用したパフォーマンスだ。
――これでどう?
『まぁ、リーフェにしてはまぁまぁね。でも――』
『――でも?』
『これって何の役に立つの? ねぇ。うっかリーフェ?』
散々溜めてサギリが言い放つ。最後は少し笑みを浮かべながらだ。
――図星なだけにとっさに反論できないのがちょっと悔しい。まだ用途は考え中なのだ。
それでも、反論しようとして口を開きかけた僕に親友が声を掛ける。
『これってもしかして時空魔術じゃね?』
――時空魔術。それは時間と空間に干渉する魔術の総称である。その魔術が及ぼす影響の大きさと希少性ゆえに、伝説と称される魔術である。
『まだ分かんないよ。マーロウ』
僕は正直に答える。
確かに『ポケット』の特徴は、時空――特に空間を制御する術と一致している。それに、伝説の魔術という響きはとてもカッコいいので、気持ちとしては肯定したい。
だけど、まだこの『ポケット』は検証中。確実ではないし、何より間違っていた場合が厄介だ。
僕はチラリとサギリを見ながら頷いた。
『――なるほどね。だけど、少なくとも面白そうなスキルだな。まだってことは、検証段階ってことなんだろ? 今度俺も混ぜてくれよ』
『そうだね。一竜でできることには限度があるし、過去の文献調査とかはマーロウの方が得意だよね? こちらからも是非お願いするよ』
そう。彼は脚竜族にしてはインドア派で本をよく読んでおり、文献調査なども得意なのだ。脚竜族にしてはであるが。
『ふーん。じゃあ私も混ぜてもらおうかしら』
サギリがそんなことを言い始めた。むぅ。なんでここで口を挟むの?
『じゃあ、今度三竜で検証しようぜ』
でも、僕が口を開く前にマーロウが返事をしてしまう。
『良いだろ? その方が検証も捗るし』
笑顔でそう言われると断れないじゃないか。
――こうしていつもの三竜組で、僕のスキル検証をすることになるのだった。
――――――
――何だかちょっとイライラする。
リーフェが進化したとは聞いていたけど、あのニヤケ具合は何?
何を考えているか大体わかるけど、あなたみたいなお子様なんて、誰も相手するわけがないでしょ?
思わず憎まれ口を叩いてしまう。
――やっぱりイライラする。
リーフェの使うスキルを見て唖然とする。どう見ても時空魔術だ。
――にも拘らず――何? この大道芸みたいな使い方は?
思わずまた憎まれ口を叩く。
――イライラが募る。
リーフェとマーロウが二竜だけでスキル検証をするようだ。
――ちょっと私も混ぜてよ。とっさに口に出る。
一瞬リーフェが口を開きかけたが、マーロウが先んじてとりなしてくれた。
でも――
口の動きで『素直になれよ』――ってなにそれ? 私はいつも素直でしょ!
――やっぱりこのイライラは、素直にうっかリーフェにぶつけようかな。




