160.新たな依頼
笑いが――止まらない。
憂いは全て断たれた。
これで――全てを手に入れることができる。
こんなに上手くいくとは、正直自分でも思っていなかった。
だけど――
『ねぇ。何、朝からキュッキュキュッキュ笑ってるのよ』
『――何だよ。邪魔するなよサギリ。今、秘密の特訓中なんだから』
背後からの声に振り向くと、そこにはあきれ顔をしたサギリが居た。
――今、一番見つかりたくない相手だ。
『ふーん。秘密ねぇ。もしかしてそっちにあるお菓子が関係しているのかしら』
――っ!
僕は思わず片隅に置いていたお菓子の方を見てしまう。
『――まぁ。どうせ碌な事じゃないだろうし、どうでも良いけど』
――なら、いちいち突っ掛かってくるなよ。
僕はサギリを睨みつけた。
『――それで? 僕に何の用だよ』
『――あまりに変な声で笑ってたから、すっかり忘れてたわ。呼び出しよ』
『呼び出し?』
『ええ。『黎明』の事務所に集合だって』
――――――
「それで――今日は何か御用でしょうか?」
『黎明』の事務所に着いた僕達を待っていたのは、茶髪お嬢と――
えーと。このお兄さん誰だっけ。何だかキラキラしている。
誰だか忘れたけど――どこかで見たことのあるお兄さんだ。
「はい。それが――実はまた指名依頼が入ってしまいまして」
――指名依頼?
依頼ってことは――もしかしてギルドの人?
そういえば、なんかそんな気がしてきた。
聖国に来たばかりの頃に、少しだけ会ったような気がする。
それと――もしかして指名依頼って、鑑定おじさんを迎えに行ったのと同じやつ?
でも、それって――
「こちらが依頼内容が記された封書です」
「あの――指名依頼ということですが、私達は既に指名依頼を受けています。5日後に再び西都に旅立つ必要があるのですが、それまでに終わる依頼なのでしょうか?」
――そうだよ。
お兄さんが封筒をテーブルの上に置く。その仕草を見ながら考える。
確か、今度は西都に帰る鑑定おじさんを送る依頼があったはずだよね?
だから僕も、それに間に合うように頑張って特訓してたんだし。
「いえ。聖殿からの話では、今回の依頼の方が優先とのことです。ユニィさん達が現在受けている方の依頼については、ギルドより他の人員を紹介することとなりました」
「――その依頼、断ることはできるのでしょうか?」
優先ってどういうこと? ――って、お兄さんの言葉に驚いたのも束の間。
ユニィの返答にさらに驚かされる。
何言ってるのユニィ。凄く重要そうな依頼でしょ?
僕の困惑の感情が伝わったのか、ユニィがこちらをちらりと見た。
「先日までの依頼では、魔物に襲われて危ない目にも逢いました。「聖域の騎士」のロランさんが居なければ、命すら無かったと思います。――そんな西都行きよりも重要な依頼。そんな依頼、駆け出しポーターには荷が重すぎます」
うーん。
確かにこの前は油断したけど、あんなに足の速い魔物なんてそうはいないから大丈夫じゃない?
それに、重要だからといって危険だとは限らないし。
ユニィは心配しすぎだと思う。
『ねぇ――』
「聖殿からの話がもう一つ。依頼内容を確認頂ければ、あなたは確実に依頼を受託するだろうとのことでした」
ユニィに声を掛けようとしたけれど、先にお兄さんがユニィに答えていた。
「依頼内容――ですか?」
その場の全員がテーブルの上の封筒に目を向ける。
ユニィも少しの間封筒を見つめていたけれど――意を決したのか封筒を手に取り、中から紙を取り出して読み始めた。
そして――読み終わると同時。
ユニィから強く固い――決意を示す感情が伝わってきた。
「分かりました。この依頼、お受けいたします」
言ってるそばから、抜けてましたね。
ギルド受付のライムさん。
犬おじさん以下の扱いです。(合掌)




