158.平静と動揺
「――驚いたか」
鑑定おじさんの問い掛けに、僕は首を縦に振る。
本スキル所有者は成人前に命を落としているって――一体どういうこと?
「私も驚いたぞ。まさか――成人した『連環』のスキル所有者に出会うとはな」
その後。
僕達は――おじさんの話を聞いた。
おじさんによると、『連環』のスキル所有者は数年ごとに現れるらしい。
過去の文献にも載っているし、おじさんも何度か鑑定したことがあるそうだ。
そのスキル所有者達は全員が未成年で。
そして全員が成人を迎えずして死んだ。
――周りの人々を巻き込んで。
『そんなの――おかしいよ。だって『リンケージ』の術について調べた時、そんな話はどこにも出て来なかったじゃないか。あのマーロウでも知らなかったんだよ。そんなの――絶対に絶対におかしいよ!』
僕はおじさんの眼前に詰め寄った。
おじさんには僕の言葉は聞き取れないけど――それでも。言わずにはいられなかったから。
そんな僕の肩に。
手が添えられた。
「リーフェ」
ユニィの落ち着いた声がする。
――なんで。なんでそんなに落ち着いていられるの?
「ウィルノレジスさん。もしかしたら――なんですけど、その方々に『リンケージ』の術は」
「ああ。こんな術は初めて見る。恐らく――これも新術だろう」
「やっぱり。――――分かりました。ありがとうございました」
頭を下げるユニィから伝わる感情は――凪。
凪いだ日の草原のような。
そんな静かな感情。
「ああ。役に立ったのであれば僥倖だ。――幸運を」
――――――
『ねぇ。ユニィ――貴女、本当に大丈夫なの?』
「うん。大丈夫だよ」
鑑定おじさんとの面談を終えて。
僕達は聖殿の廊下を歩いていた。
ユニィは平気そうにしているけど――僕の頭の中は、さっきのおじさんの話でいっぱいだ。
これまでのスキル保有者は、全員成人前に命を落としている。
それも「暴走した『力』による事故」や「魔物による襲撃」で周りの人を巻き込んで――だ。
言われてみれば。
これまで魔物に襲われたことが何度もあった。
遺跡でユニィが居なくなったり、倒れたりしたこともあった。
そもそもユニィと出会った時も、魔物に襲われていたし。
もし――僕があの時ユニィと出会っていなかったら。
――ちょっと嫌なことを考えてしまった。
僕は頭を振って、嫌な想像を振り払う。
変な事を考えてると、それが現実になっちゃうかも――
『ユニィ?』『ユニィ!』
突然。
横を歩くユニィの感情が乱れた。
思わず叫んだ僕の耳に聞こえたのは。
「ああ。ようやく会えましたね」
――氷のお兄さんの声だった。
「それではまたお会いしましょう」
礼儀正しく一礼をして去っていく、氷のお兄さん。
その後姿を――僕は遠い目で見つめていた。
――なんで。なんでこういう事になったんだろう。
僕の目の前には、砂の詰まった布袋が2袋置いてある。
お兄さんの言葉を借りると「毎日4時間。この砂袋を背負って走ると良い」らしい。
何が良いのかさっぱり分からないけど――まぁ良いか。
訓練に取り入れたら脚力が付きそうだし。
――そういえば。
「あの氷の巨人みたいに体を大きくするのは、どうやって術を使ったら良いのか?」って質問。
結局――答えてもらえなかったね。
次話が第四章最終話の予定です。




