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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第四章 乗合騎竜
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155.冗談と真剣

「初めはこの女竜(むすめ)のスキルで良いんだな」


『ちょっとユニィ。私は大したスキルなんて持ってないんだから、必要ないって――』

「はい。お願いします」


 サギリはまだ抵抗しているけど――往生際が悪い。

 サギリだって、実は凄いスキルを習得しているかもしれないじゃないか。

 ――『睨み(デモニックアイ)』とか『悪口(カーススペル)』とか。


「ではいくぞ」


 サギリを前にした鑑定おじさんの瞳が濃灰色に輝く。

 そのまま見ていると30秒程で瞳の色が元に戻り、おじさんは息を吐いた。

 どうやら、『構築』とかいう術は終わったみたいだ。

 おじさんはそのまま手元の紙に何かを書くと、サギリに手渡した。


 ――意外と簡単そうだね。

 これで僕達の依頼と同じ金貨1枚とか――もしかしてぼったくりじゃないの?

 そう思いながら、サギリが持つ紙を覗き込――


『何見ようとしてるのよ』


 思いっきり睨まれた。


 ――やっぱり。

『睨み』のスキルは確実だね。うん。




 ――長い。


 正面から、濃灰色の瞳で僕の顔を見つめる鑑定おじさん。

 サギリの次は僕の番だったんだけど――


 ――長い。


 もう確実に5分以上は経っていると思う。

 しかも――何だか全身がくすぐったい。今にも吹き出してしまいそうだ。

 僕が必死に耐えていると、おじさんが突然ふぅと息を吐いた。


「やはり――君は」


 もう瞳の色は元に戻っている。

 ――ということは、これで終わりかな。

 おじさんが手元の紙に何かを書いて――って、あれ? 3、4文字だけ?

 僕が首を傾けていると、おじさんが口を開いた。


「もう一度。もう一度『分析』させてもらえるかい?」


 えーと。

 それは良いんだけど――おじさんの目がちょっと怖い。

 ――いや。

 口元を良く見ると少しだけ上がっているし、痩せた体躯と相まって正直かなり不気味な様相だ。絶対に友達にはなれない――したくないタイプだね。


「どうかね?」


 ――どうしよう。

 おじさんが再度問いかけてきた。

 だけどこれ、やばいかも。ここで頷いてしまったら、もしかして僕は――


「お願いします」


 ――えっ?

 僕が一竜(ひとり)悩んでいる(遊んでいる)間に、ユニィが答えちゃった。



『それじゃあいくよっ――()れ、汝の根源をっ『アイデンティファイ』!』


「おおっ! これは――なんという事だ――素晴らしい。素晴らしいぞっ!」


 サギリに向かって『アイデンティファイ』の術を使う僕を、鑑定おじさんが凝視する。サギリも僕を凝視する。

 ふたりでノリノリに見えるが、断じて遊びではない。決して。多分――もしかしたら。

 ――というか、言葉が通じないはずなのに、僕達なんで息がぴったりなんだろう。――不思議だ。まるで10年来の親友みたい。


 いや、そんな冗談は置いておいて。

 真面目な話。おじさんの話をよく聞くと、僕の『進化樹』スキルの情報を『構築』した時に、見慣れない術(アイデンティファイ)を見つけた――という事らしい。

 昔、同じ『進化樹』のスキル持ちを鑑定した時には、そのような術は()()()()()()()のに。だそうだ。


 そして――

 真剣な顔をしたおじさんが口を開く。先程までとのギャップが凄い。


「やはり――間違いない。これは新術だな」


 ――やっぱり。

 この術を修得した時にも、新しい術なのか失伝した術なのかを考えてたんだけど――どうやら、新しい術の方だったらしい。


「新術――新しい術が増えるなんてあり得るんですか?」


「――()()。確か――12年程前だったか。当時、新術が発生したことがあるのだ」


 おじさんが何だか興味深いことを話し始めた。

 もしかしたら――更なる新しい術を修得する際の参考になるかもしれない。

 僕は良く聞こえるように耳の穴をおじさんの方に向けた。


「その時はありふれたスキルに発生したこともあり、大騒ぎとなった。突然、そのスキルを持つ者全員が正体不明の新術を使えるようになったのだからな――当然だ。私の元にも多くの鑑定依頼が寄せられた」


「そんな――ことが」


「ああ。忘れもしない。その術の名は『筋肉(テレ)――」


 僕は両前脚で耳の穴を塞いだ。

 だけど――前脚を支える肩が。大地を踏みしめる後脚が。

 ――わなわなと震えている。


 恐るべし覚醒者(父竜)。恐るべし内なる声(マッスルボイス)

 まさか父竜が――そんな有名竜(ゆうめいじん)だったなんて。


 ――今度、サイン貰おう。



 僕が震えている(ふざけて遊んでいる)間に、スキルに関する再『分析』と『構築』も終わったようだ。

 おじさんがすごい勢いで紙に何かを書いている。

 今度こそ、大丈夫そうだね。

 それじゃあ次はユニィの――


「次は()()()()()だな」


 ――まだやるの?

 いいかげん、お腹が空いてきたんだけど。



 ――結局。僕の鑑定結果が全て出たのは、さらに30分後のことだった。


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