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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第四章 乗合騎竜
152/308

147.本物

 砂糖蟻を前に意気込む僕の横で、光球おじいさんの静かな声が聞こえた。


「なんじゃ。来てしもうたのか――『光球』」


 声と共に周囲が明るくなる。

 光っているのは術により生み出された4つの光球だ。

 どうやら、光球おじいさんは()()だったらしい。真・光球おじいさんだ。


「それじゃあ、足止めはお主に任せたぞ」


 それだけ言うと、真・光球おじいさんは後ろに下がる。

 蟻の方を見ると、急に明るくなったことに驚いたのか、動きが止まっていた。


 ――そうだ。この隙に。

 僕は先程まで見えなかった周囲の状況を、素早く確認した。


 まず、この空間の広さは幅50m×奥行150m程度。高さは3~5m。

 ただし、入口側に向かって左手3分の1は水が溜まっている状態だ。

 残りの陸となっている部分の地面には、全体的に大きな出っ張りはなく、走り回るのには支障がない。


 鑑定おじさんとユニィは奥側の壁際まで下がっている。

 サギリも一緒だ。隙を見て二人を連れ出すためだろう――多分。


 僕は視線を蟻に戻す。

 蟻も既に視界が正常に戻ったようだ。

 こちらを見る仕草の後、体を大きく見せるように前脚を上げて威嚇してきた。


 ――おそらくは。

 氷のお兄さんも、蟻を一匹討ち漏らしたことに気付いているだろう。

 であれば。僕のすることは簡単――おじいさんの言う通り足止め――つまりは時間稼ぎだ。

 数分。長くても5分持ちこたえれば、お兄さんも追い付いてくるはずだ。


 僕は、どの方向にも飛び出せるように体勢を低く構える。

 初動の為の『ポケット』は既に配置した。

 あとは――蟻の僅かな動きにも対応できるよう、視界を狭め――その動きに集中する。



 永遠にも感じられた――数秒の後。


 蟻が前脚を下ろす。

 同時に僕は『ポケット』を蟻の前に4つ展開した。


「キィッ!」


 蟻は僕の術に弾かれてのけ反った。


 ――実戦では初めて使ったんだけど、上手くいったみたいだね。


 名付けて『シールド』。敵の動きを止めることを目的として、50cm角のひし形の頂点に『ポケット』を配置した応用術だ。


 一度出した『シールド』は動かすことはできないけど、解除して再度出し直せばどこにでも出せるし、1か所づつ『ポケット』の位置を変えて出し直せば、疑似的に動かすこともできるのだ。


 ――と、そんな便利な『シールド』だけど――いくつか欠点がある。

 その内、最大の欠点は――


『あっ! ――と。危ない危ない』


 この術。実際には4つの術を同時に位置制御している。

 だから術の制御に集中しないと、術がまともに維持できないのだ。

 当然――その隙に逃げたり等、他の行動は難しくなる。


 ――取り合えず、考え事はやめて集中しよう。集中集中。



『――もう5分ぐらいは経ったでしょ!』


 僕もそろそろ――集中力の限界だ。


「まだ1分ちょっとしか経ってないよ!」


 ユニィの声が聞こえる。

 ――えーっ? まだ1分!? そんなの――あと4分とか無理だよ。

 それに――


「ギッ」


 入口の奥から、紫の光に照らされた2匹目の蟻がその姿を見せる。


 そう――もう一つの大きな欠点。

 それは『シールド』の術を、2か所同時に発動することは不可能ということだ。――少なくとも、僕の今の実力では。


 だから――僕は伏せていたもう一つの札を切る。


『『ポケット』っ!』


 2匹目の蟻の頭上に開く黒い穴。

 それは、先程から水中に仕込んでいた5()()()の『ポケット』。


『流れちゃえっ!』


 その穴から、凄まじい勢いの水が()()()くる。

 これでしばらく2匹目の行動を封じることができるだろう。


 あとは1匹目だけど――

 僕は再度シールドで抑え込みをかける。

 このまま氷のお兄さんが来るまで――


「足止めよう頑張ったのう――はぁっ!」


 突如響くおじいさんの声と弾けるような音。

 気付くと、僕の視線の先には瞳を黄色く輝かせたおじいさんが映っていた。


 ――って、足止めってそっち用だったの?

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