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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第四章 乗合騎竜
148/308

143./記憶にない/

「これは――また随分と使い込まれているねぇ。ほら、この辺りも糸がほつれかけているし、こっちは皮が擦れて薄くなっているわよ?」


「補修――できそうですか?」


「まぁ、縫い直しと補強だけなら――糸の色にこだわらなければすぐに終わるわね。そうねぇ――銀貨1枚で半日というところかしら」


 ほっと息を吐く。

 いつもリーフェが大事そうに抱えている皮袋だもの。

 できれば直したかったから。


「それではお願いします」


 前金として半額払い、皮革職人の店を出る。

 近くで辺りをきょろきょろと見回しているリーフェに声を掛けた。


「リーフェ! 皮袋、簡単に直せるって。ついでに補強もしてもらうから、また夕方ぐらいに取りに来よう?」


『うん。分かったよ。それじゃあ――今から「くいだおれ」だね!』


 その言葉と共にリーフェが近くの屋台に走っていった。

 どうやらもう目星は付けていたみたい。


 ――食べ歩くのは良いけれど、本当に倒れたりしないでね?


 私はリーフェの背中を追いかけた。



 ――――――


『おお! バイス。久しぶりだな! トロアも元気そうじゃないか!』


『ブラン。お前も相変わらず元気そうだな――って、なんかデカくなってないか?』


『ああ。肉を食って(マッスルチャージして)身体を鍛えた(筋肉増量した)からな。そうだ、お前もちゃんと送った生肉食ったか? 進化したいんなら生肉だぞ?』


 久しぶりに見た筋肉バ――ブランは、俺達が知る頃より二回り――いや、それ以上大きくなっていた。

 あの頃はバイスと同じぐらいの大きさだったはずなんだが――進化種の影響が成長にも出てるのか?

 ――まぁ良い。とりあえず挨拶からだ。


「久しぶりだな。ブラン。連絡を寄こさないから心配したんだぞ」


 とりあえず少し突いてみる。

 お前、もう少し反省しろよ。


『ああ。そうだな――』


 お? 意外と殊勝な態度じゃねぇか。てっきり頭が筋肉な回答が来ると思――


『まさか、お前たちが筋肉交信(テレマッスル)を使えないとは――盲点だった。本当にスマン。後でしっかりレクチャーしてやるから許してくれ』


 ――まぁ、そんな事だろうと思ったよ。

 てか、そんなもんのレクチャーは要らねぇ。


 そんなやり取りをしている間に、ブランの隣に居た『エルダーラプトル』が進み出てきた。

 そうか、彼女がリーフェスト君が言う――


『はじめまして。ブランの妻のサーラと申します。リーフェストもお世話になっているそうで、いつもありがとうございます』


 ――いや。まともじゃねぇか。

 真竜(ドラゴン)並みに恐ろしいとか言ってたけど――まぁ。あれだな。身内特有の誇張だな。


「はじめまして。トロアと申します。昔ブランと共に黎明というユニオンに所属していました。今はフロンティアというユニオンの代表を務めています。あちらに居るのが――うちのバイスです」


 バイスに視線を送ると、向こうでブランに絡まれていた。何やってんだ。


『そうですか――ところで。うちのリーフェストは()()()()()()?』


 ――なんだ? あいつ仕事で不在にするのを伝えていないのか?

 そう思いながら視線を戻し。


 俺は。



 ――真竜の真竜たる所以(全て)を悟った。




 とりあえず、あいつ(リフ公)は許さねぇ。



 ――――――


『――ん? ユニィ、今何か言った?』


「え?」


 ユニィが驚きの感情と共に、目を丸くして僕を見る。

 うーん。どうやらユニィじゃないみたいだね。


 ――じゃあ、誰か(女竜)が僕の噂でもしてたとか?

 急いで辺りを見回したけど、それらしい姿も見えない。


 そのまま首を傾ける僕に、ユニィが声を掛けてきた。


「ねぇリーフェ。それはそうと、そろそろ皮袋の補修が終わってる頃だから、受け取りに行こうよ」


 ユニィに言われて空を見ると、お日様が随分と傾いていた。

 そうだね。まだ食べれそうだけど、今日はこのぐらいで止めとこうかな。




「ここ……」

「……うですね。……ト……?」


 お店の外で待っていた僕の耳に、ユニィがお店の人と何かを話している声が聞こえた。

 あれ? 受け取ってお金を払うだけだと思ったんだけど――何かあったのかな?


 そんなことを考えていたら、ユニィが店の入口から出てきた。


「ねぇ、リーフェ。ここなんだけど」


 ユニィが手に持った皮袋の端っこを指さす。

 ――ん? 汚れてる?


「お店の人の話だと、何か印字されていたみたいなんだけど掠れてて――「スト」って見えるから、リーフェの名前が書いてあったのかな? ついでにここも直してくれるみたいなんだけど――」


 ――うーん。確かに目を細めてみると「スト」って書いてあるように見える。だけど――


『この皮袋はもらい物だから、僕の名前じゃないはずだよ?』


「――え? そうなの? リーフェが初めから持ってたんじゃないの?」


 僕は頷きながら答える。


『そんなことないよ。もらい物だって』


「そう――。それじゃ、この印字どうしよう――」


『――ついでだから、僕の名前を印字してもらおうよ』


 僕がそう言うと、「そんなことして良いのかなぁ」とか言いながらお店の中に戻っていった。

 ――本当にユニィは真面目だね。




 ――そう言えば。

 あの皮袋、誰にもらったんだっけ?


 さっぱり思い出せないけど――まぁ良いか。






 ――――――


 俺達が南の大陸に来てから、既に3か月が経とうとしていた。


 その間、脚竜族の集落を回りながら、儀式に係る情報収集に努めているのだが――

 一言でいうと、未だ特異的な調査結果は得られていない。

 訪れた集落がまだ全体の2割弱なので、当然といえば当然なのだが。

 半数以上の集落を訪れるとしても、あと半年は調査が必要だろう。


 ――まぁ、そんなに簡単に分かったら()()()()()けどな。

 思わず口元が上がる。



『――ん? リーフェか?』


 俺の視界に紫の光が現れたかと思うと、一拍遅れて黒い穴が出現した。

 俺はいつも通り手近な文具を穴に入れ、出てきた手紙を確かめる。


 今度こそ何かあったのか? と思ったが、いつも通りなんてことのない話だった。


 ――へぇ。あいつ西都に居るのか。

 鑑定は――金がないんだっけ? 勿体ないな。


 そのまま読み進める。


 ――うわぁ。皮袋が壊れて中身が全滅とか悲惨だな。

 まぁ、薬師にもらったって言ってた時から随分古そうだったからな。

 ――よし。次に連絡が来た時には何か食い物を送ってやるか。



 そうだな――こっちは名産の砂糖を使った菓子が多いからな。

 日持ちのする菓子を見繕っとくか。



次話から第7エピソード後編です。

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