142.価値あるもの
『あら。分かってるじゃない』
通されたその場所を見て、私は呟く。
リーフェが散々脅かすから、また豪華な客室に通されるんじゃないかと思って少し身構えてしまっていたけれど――どうやら心配は杞憂だったようだ。
私とユニィ――ついでにリーフェが通されたのは、裏庭に面した一室だった。
恐らく従者用の部屋なのだろう。
裏庭に面した側には扉が設けられており、そのまま裏庭の厩の横に出ることが可能となっていた。
ここまで案内してくれた使用人によると、私達脚竜族は裏庭のどこで寛いでも良いそうだ。
やっぱり、ものの価値が分かるとこういうことにも気が回るようになるのかしら?
私は、先程対面した初老の人族の事を思い返していた。
――――――
――私達。場違いじゃないかしら?
同行していた騎士の――確かロランさんだったかしら。
そのロランさんが初老の男性人族の手を握っているのを、背後から眺める。
宿泊場所に案内するということでロランさんに案内されたのは――豪邸だった。
ユニィ達の住む今の家と比べたら――と思ったけど、差がありすぎて比較すらできそうにない。
比較するのなら、ギルドの建物とか以前聖国へ向かう途中に立ち寄った領主の館とかかしら?
それでも、こっちの方が数倍は大きいわね。
いずれにせよ。
この屋敷を見た私の感想は『外周を回るだけで良い訓練ができそうね』というものでしかなかったし、以前の領主の館の時みたいに私達は別室に案内されると思っていたら――
現実はこの状態。
騎士のロランさんだけで挨拶をして、私達は挨拶しなくても良いんじゃないかしら? と思っていたのだけれど、ロランさんによると私達も顔を合わせておく必要があるらしい。
何でも、その結果次第では今回の仕事自体が取り止めになるかもしれないのだとか。
――人族の考えることは良く分からないわね。
早く終わらないかしらと思いながら、しばらく二人の人族が手を握ったまま話をしているのを眺めていると、握っていた手が離れるのが見えた。
――ようやく話が終わったみたい。
ロランさんは、そのまま初老の人族と共に私達の方にやって来た。
「ウイルノレジス殿。こちらが今回連絡差し上げていたユニィさん達です。聖国への移動も彼女達が担当します」
ロランさんの紹介の後、私はユニィが挨拶を返すのを眺めていた。
――ユニィが少し緊張している以外は特筆するようなこともなく、そのまま私とリーフェの紹介を――あら? 今、何か光らなかったかしら。
その光にはユニィもリーフェも気付いていないみたい。
何だったのかしらと思っていたけれど、私達の紹介が終わったらしくユニィが頭を下げたので、私も慌てて頭を下げた。
「素晴らしい!」
頭上で響いた耳慣れない声に視線を戻すと、やけに上機嫌な初老の人族がいた。
その後も「素晴らしい」を連呼していて、私達の事が相当にお気に召したらしい。
――さすが鑑定屋をしてるだけあって、ものの価値というのが分かっているのね。
その後。
ロランさんはまだ話があるということだったので、私達だけ先に宿泊用の部屋に案内してもらうことにした。
案内される途中の廊下には、絵画とか壺とか価値が良く分からないものがたくさん並んでいた――恐らくどれも高価なものなのね。私にはその価値はわからなかったけれど。
――――――
『よーし。それなら、ここからここまでは僕の陣地ね!』
耳に届いた気の抜けるような声に、意識を戻す。
――まったく。それに比べたら、リーフェはどこに行っても変わらないわね。
でも――
『それじゃあ私は、この屋根の下にしようかしら』
『えーっ。そんな少しで良いの?』
『ええ。問題ないわ』
――毎日私の訓練に付き合わせてるんだし、このぐらいは付き合ってあげようかしら。
長くなるので次話で一度エピソードを区切ります。




