136.指名依頼
――運命というものについて。
今更ながらに考えることがある。
避けることのできない過去の事象があり。
避けることのできない未来の事象がある。
それが運命。
それを改変することは、私の存在全てを費やしても不可能。
――そう思っていた。
だけど今は。
天秤の上に積み重なる現在の事象。
そこに加わる一滴の雫。
天秤を傾けるその雫こそが運命だったのかもしれない。
そう思う。
だから私は今日も。
――ただ祈る。
――――――
『聖都に行くって――何言ってるのユニィ?』
思わず聞き返す。
長老じゃあるまいし、ボケた――なんてことはないと思うけど。
「だから、指名依頼でせいとから聖殿まで人を連れて来る依頼があったの」
うーん。
聞き間違いではないみたいだ。
『ねぇ。聖殿までだったら歩いて行った方が早いんじゃないの?』
――あれ?
少し間が開く。
首を15度ぐらい傾けてユニィの方を見ると、変な顔をしたユニィがもう一度ゆっくりと言い直してくれた。
少し悲しそうな感情が伝わってくる。
横にいるサギリが僕を睨んでくるのが分かる。
「――西都ウィスディンから、ウィルノレジスさんという人を、聖殿まで連れて来る依頼があったの」
――ようやく理解できた。
何だかウィウィ言ってたから聞き飛ばしていたけれど、ウィスディンと言えば西都。
聖都じゃなくて西都だったみたいだ。
『西都ウィスディンって――もしかして鑑定屋さんのいるところ?』
――そうだ。
新しい術もあるし、西都に行ったついでにその鑑定屋さんで鑑定して――って、お金がないんだった。
僕も少し悲しい気持ちになった。
「そう――というよりも、ウィルノレジスさんって人がその鑑定屋さんだよ」
『え? そうなの? それじゃあもしかして、ついでに鑑定してもらえたりとかするの?』
僕の心に一筋の光が差す。
「それは――無理じゃないかな。お金もないし」
光は――――消えた。
『それじゃ、出発は3日後なのね』
「そうだよ」
サギリの言葉にユニィが頷く。
鑑定屋さんとの約束の日は2週間――だから14日後。
ここからウィスディンまでは8日間掛かる道のりだけど、少し余裕を取るみたいだ。
「しばらく留守になるから、その間は予定を入れないでね」
何故か僕の方を見ながら、ユニィが続ける。
『何言ってるの。大丈夫に決まってるでしょ!』
本当は1週間後に、ディーノさんと屋台食べ歩きを計画していたんだけど――仕方ない。キャンセルだ。
代わりに西都でくいだおれしよう。うん。そうしよう。
他は――バイスさんの所に行くのは明後日だから問題ないかな。
「帰って来るまで3週間以上だからね」
ユニィが念を押してくる。
――大丈夫だよ。僕はこう見えても計算はユニィよりも得意だからね。
14日に帰り8日を足して22日。
余裕を見て25日ぐらいは予定を入れなければ良いんでしょ?
――と思っていたら、横から声がした。
『そんなに長いの? それだと脚力が落ちそうね』
――依頼の間はずっと走っているはずだけど、まだ足りないの?
と思ったけど、何だか嫌な予感がする。口には出さないでおこう。
横から視線を感じた気がするけど、そのまま黙ってユニィの方を向いておくことにした。
『仕方ないわね。リーフェ、あなた訓練に付き合いなさいよ』
――無駄だった。




