135.例外
『ちょっと出掛けてくるねー』
そう言って出かけていくリーフェ達を見送る。
その後ろ姿が楽しそうに見えるのは、おやつが楽しみだから――だけじゃないよね。やっぱり。
さっきまでのリーフェ。
他竜のクラスとはいえ、進化先とその進化方法を考えている時。
楽しいって感情が伝わって来てたもの。
私は家の中に戻ると、自分の部屋へと向かった。
窓際の棚。一番下の棚の左奥。
そこにあるのは小さな木箱。友達からの手紙みたいに――大切なものを仕舞っている箱だ。
私はその箱から皮袋を一つ取り出し、その中身を確認した。
「やっぱり――少なすぎるよね」
軽く金貨と銀貨の数を数えてみたんだけど。
――全部合わせても、金貨3枚分にも満たないと思う。
リーフェだけでも『鑑定』を受けさせてあげたかったけれど――このお金だけでは鑑定費用を賄うことはできない。
――ちょっとレインさんに相談してみようかな。
私は箱を元の位置に片付けると、『黎明』の事務所へと向かった。
――――――
「あの――」
事務所の扉を開けながら声を掛けようとして――途中で来客の存在に気付く。
「すみません。出直します」
とっさに頭を下げてその場を離れようとした私を、レインさんが呼び止めた。
「ユニィちゃん! ちょうど良かった。あなたにも話を聞いて欲しかったの」
「私も――ですか?」
来客に対応するような理由はないはずだけれど。
私は首を傾げながら、改めてレインさんの向かいに座る人を見た。
あれ? この人どこかで――って、ギルドの受付の人?
ギルドがユニオンの代表に用事があるのは分かるんだけど――私に関係する用事って何だろう?
私がレインさんの隣に座ると、受付の人が話を再開した。
「ユニィさんも来られたことですし――基本的な所も含めて、ここまでの話を簡単に説明させていただきます。――ああ。申し遅れましたが、私運送ギルドで受付を担当していますライムと申します」
私が頷きを返すと、それを確認して受付の人――ライムさんが続けた。
「御存知の通り、私達聖国の運送ギルドでは独自のローカルルールとしてユニオン制を採用しています。従って、ギルドが依頼を斡旋することはありません――一部の例外を除いては。――ええ。本日はその例外。聖殿からの指名依頼をユニィさんにお持ちしました」
「聖殿から――ですか」
――聖殿からの依頼。
もしかして、ソニア絡み?
私の胸の中に、不安が湧き出し渦を巻き始める。
まだソニアは子供なのに、大魔との戦いに連れ出されてしまうのだろうか。
だとしたら、何としても一緒に付いて行って、私が守ってあげないと――
「そうです。とある人物を聖国――聖殿まで連れて来て欲しいとのことです。具体的な内容についてはこの封書の中に記されています」
――良かった。
どうやら、心配していたような話では無いようだ。
一つ安堵の息を吐く。
――でも、それじゃあ何故私に?
私がそんな事を考えている間に、ライムさんは懐から封書を取り出すと、テーブルの上に置いた。
「この依頼を受託頂けるのであれば、この封書をお渡し致します。――どうなさいますか?」
少し気になることはあるけれど、既に私の心はこの依頼を受ける方向に傾いていた。
ただ――依頼を受ける前に聞いておくことがある。
「報酬はいくらでしょうか?」
金貨3枚以上だとありがたいんだけど――
「聖殿より提示されている報酬は金貨1枚ですね。ただし、道中における必要経費は報酬とは別に支払われる事になっています」
「――わかりました」
人を輸送するだけだし、流石にそこまで甘くは無かったみたい。
私は受託の意を伝えると、ライムさんから封書を受け取った。
次回から新エピソードとなります。




