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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第四章 乗合騎竜
139/308

134.再び

『それじゃあ――いくよ?』


 僕はバイスさんに向き合い、軽く声を掛けた。


『いつでも良いぞ』


 バイスさんの後ろでは、怪しいお兄さんが頷くのが見える。

 僕もひとつ頷きを返して目を瞑った。


 ――『ツリー』。

 まずは進化樹を思い浮かべながら『ツリー』の術を起動する。


 視線の先。瞼の向こう側に展開されていく進化樹。

 いつもはこの進化樹を眺めているんだけど――今は。


 深く息を吐き。そして吸う。


 いつも眺めるのは進化樹の枝葉の先。

 今回はそれとは逆に、進化樹の根本に集中する。


 そこにあるのは――進化樹の起点『リトルラプトル』。

 だけど今は。

 起点を超えて、より深く――その根源へと意識を集中する。


 そこは――昼なお暗い鬱蒼と茂った森の中のような。

 光の差さない地面の下に潜り込んだかのような。

 何も――何も見えない。


 一瞬だけ生じた迷いを、歯を噛みしめることで堪えて――

 そして。

 父竜(とうさん)のその言葉を()()思い出す。


 ――『考えるんじゃ無い。そうだ、感じるんだ』


 思考を解放し、感覚を開放する。

 雑念は彼方へと消え、知覚は己が内面へとその対象をシフトする。


 ――『耳を澄ませばお前にも聞こえてくるだろう?』


 視覚も触覚も――味覚も嗅覚も。そして、それらを超えた感覚も。

 全ての感覚を使い、その声に()()()()()


 ――『この内なる声が』


 ――視線の先に光が見える。

 囁くような唄うような――微かなざわめきが聞こえる。

 思考を解き放っている僕は――ただ感覚の命ずるままにその光へと近づき。

 そのまま光に手を触れ――目を開く。


 ――僕は。

 その()のままに、重ねるように声を出す。


アイデンティファイ(種族同定)


 首筋に僅かに感じる冷たい感覚。

 そして――


『お? それが新しい術か?』


 視界に映る進化樹に確かな変化が生じていた。


 これまではただ――クラス名がツリー状になって見えていただけだった。

 だけど今は。


 クラス名『エルダーラプトル』が淡く光り、その文字列とバイスさんの額との間が赤い光で結ばれている。


『それで――一体、何が分かったんだ?』


『――何も』


 そう。他には変化は無かった。

 期待していた進化先の情報も、進化のトリガーとなる進化因子も何も。

 何も情報は増えていない。



 ――――うん。こうなる予感はしてたんだ。



 僕はもう一度目を閉じた。


 ――――――


「いやぁ『進化樹』のスキルとか、まだそんなものを隠し持っていたなんて。本当に珍しいものを見せてもらったよ。――ああ、今からでも遅くはない。うちのユニオンに移る気は無いかい?」


『……』


 お兄さんは空気も読まず、先程から怪しさを全力で振りまいている。

 ――そんな話は良いから、正直今は放っておいて欲しい。


『――まぁなんだ。これでも食べて元気出せよ』


 バイスさんが僕の肩を叩きながら、目の前に皿を置く。

 忘れもしない報酬のおやつだ。今日のおやつはかりんとうだったらしい。

 先程までは待ちに待っていたそのおやつ。

 だけど今は――


『ごめん。今は放っておいて欲しいんだ』


 僕は首を横に振りながら、謝罪の言葉を口にする。


『そうか――でも、おやつは食べるんだな』


 ――当然でしょ?

 おやつは別口。どんな状況でも、おいしく頂くのだ。

 それに――今は糖分が必要だから。


『落ち込む必要はないぞ。そもそも最後のは、駄目で元々だったんだからな』


 バイスさんが尚も僕に話しかけてくる。

 いや。だから――


()()()、今考え事してるんだよ。頼むから放っておいてよ!』




 気を取り直して、再び思考の海に沈み込む。


 ――新たに修得した術『アイデンティファイ』。

 今の所は、目の前に居る脚竜族のクラス名が分かる――ただそれだけの術に見える。


 この術が全く新しい術なのか、それとも記録に残っていない失われた術なのか。それは、実際のところは分からない。

 ただ少なくとも――かつてマーロウと一緒に調べた過去の記録には、このような術は無かった。

 だからこそ――この術の()()()()()はまだわからない。


 クラス名を確認するだけなら、余程のレアクラスでない限りは見た目だけで判別できるのだ。

 そこに、『力』を使ってまでクラス名を同定する意味はない。

 だからきっと――他にも何らかの意味があるはずなのだ。


 そう多分。

 恐らく。

 きっと。

 ――だったらいいな。


 そう言えば――先程クラス名とバイスさんを結んでいた光。

 その光は赤色だった。


 ――もしかしたら。

 いや。今判断するにはデータが足りない。

 他にも何竜(なんにん)かに術を使用して、データを取得する必要がある。


 ――よし。


 僕は決意も新たに、前脚をおやつ皿の上に伸ばして――


『あれれ? もうないの?』


 ――おやつも無くなったし、難しいことはまた後で考えよっと。



本エピソードは次話まで。


私事都合により1話当たりの進行(文字数)が減ってましたが、少しづつ元に戻せそうです。

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