133.連絡
『――ということで、ブランの奴は『内なる声が聞こえた』とか言って、故郷へと向けて旅立っていったんだ』
――――うん。
ようやく――長い思い出話が終わったみたいだ。
途中からはちょっとした考え事をしていて話を聞いてなかったけど、多分問題ないと思う。
『そんなことがあったんだね』
とりあえず聞いていたふりをした僕に、怪しいお兄さんが両手を広げながら頷きを返した。
「そうそう。それで、俺達には到着したらすぐに連絡するって言ってたのに――それからまったく連絡がないんだぜ?」
『ああ。初めの頃は道中で何かあったのかと心配してたんだが――『パワーラプトル』の友竜には連絡が有ったみたいだからな』
そんな事を言いながら、ふたりが揃って笑みを浮かべているけど――何だかちょっと怖い。頬の筋肉がピクピク震えているように見えるのは気のせいかな?
――あ、そうだ。連絡といえば。
僕はこの空気を変えるため、少し大きな声を出した。
『そろそろさっきの返事があるんじゃない?』
――そう言った途端、背筋がピクッとしたけど気のせいだと思う。
『出てこいっ』
『ポケット』を起動した後、敢えて声にしながら中身を出した。
パサッという乾いた音とともに、紙片が床へと落ちる。
入れたメモとは大きさも色味も違う。恐らく父竜からの返事だろう。
お兄さんとバイスさんが、早速その紙を拾って中身を確認しているけど――何だか凄い顔をしている。
あの顔は――健康に良いからと言われて、ケロリ草で作った緑汁を母竜に飲まされた時の父竜の顔そっくりだ。
中身が気になって、そっと横から見てみると――そこに書かれていたのは一文だけだった。
――――――
後から連絡するから、今度こそは応答してくれよ
――――――
――なるほどね。
いくら僕でもこれがどういう意味かは分かる。
頷く僕の横で、バイスさんが呟きを漏らした。
『そうか。そういうことか――そんなもん俺達が気付く訳ないだろ』
そうそう。多分――って、あれ? もしかして僕の思ってたのと違う?
「――まったく。俺達に『筋肉交信』とやらで連絡されても理解できる訳がないなんて、少し考えれば分かるだろうに」
『そうだよね。多分頭の中まで筋肉になってるんだよ』
とりあえず話を合わせておいた。
ごめん父竜。
気を取り直して、再度メモを送る。
『筋肉交信』以外の方法で連絡が欲しい旨を書いたメモだ。
――さて。おふざけはこの辺りにしておいて、この隙に僕も本題を片付けないといけない。
僕は『ポケット』を一旦閉じると、バイスさんに向き直った。
『ねぇ。僕考えたんだ』
『ん? 何だ?』
バイスさんがこちらを向く。
多分、僕の真面目な表情にも気付いてくれたはずだ。
『――何か悪いものでも食ったのか? ――そう言えば、約束のおやつがまだだったな』
おやつ! ――じゃない。
それもあるけど、今は別のお話だ。
『そうじゃないよ。いや、そうなんだけど今はそうじゃないよ。――進化。進化できるクラスの話だよ』
僕の言葉に、少し緩みかけていた雰囲気が変わったのがわかる。
「その話は――終わったんじゃなかったのかい?」
お兄さんが僕に尋ねてくる。
僕はその問いには答えず、話を続けた。
『僕、考えたんだ。かつて父竜がやったみたいに新しい術を開発したり、今まで誰にも知られていない術を発見したり。それって――僕のユニークスキル『進化樹』にも適用できるんじゃないかって』
僕はそこで言葉を切ってバイスさんの顔を覗き込む。
『もしかしたら――進化先とか進化方法とか――そんなものが分かるかもしれないんだ』




