132.思い出話
『父竜?』
そう言って、バイスさんが僕の顔を覗き込む。
そしてしばらく写図の父竜と見比べていたけど――
『お前、そういえばブランの奴にそっくりだな――そうか、息子なのか。それなら――ああ。納得だな』
そう言うと、バイスさんは首を縦に振り始めた。
何に納得したのか分からないけど――父竜と僕は似ているということかな?
うーん。僕はあんなにモリモリしてないよ――と思ったけど、写図の父竜は今よりスリムだった。うん。そう言われれば似てるかも?
僕が首を傾けながら写図を見ていると、怪しいお兄さんが話し掛けてきた。
「そうか。君はブランの――なるほどね」
そう言うと、両肩を捕まれる。
何だか目が怖い。
助けを求めてチラッとバイスさんの方に目をやると、バイスさんはまだ首を振り続けていた――多分楽しくなってきたんだね。
うん分かる、分かるよ。よーく分かる。僕も時々そうなるから。
でも――今は僕を助けて。
ほら。肩を掴む力が強くなってきたよ。
痛い。痛いって。
「それなら君も」
――覗き込んでくる目が怖い。
「――遠くに居るブランと連絡を取ったりできるのかな?」
僕には――頷くことしかできなかった。
「これで良いのかい?」
お兄さんがメモを僕に差し出してくる。
連絡したい内容を紙に書いてもらったのだ。
『うん、大丈夫だよ』
僕は軽く集中するとキーワードを口にした。
『それじゃあいくね――『ポケット』っ』
目の前に現れた黒い穴に受け取ったメモを放り込むと、穴が閉じる。
「え?」とかいう声が聞こえたけど気にしない。
そのまま父竜の顔を思い浮かべながら、続けて術を使う。
『『サーチ』――それから『ポケット』!』
紫色の光が伸びた後――消える。
これで村にいる父竜の所に『ポケット』が起動しているはずだ。
『これで後は待つだけだね』
そう言って、ふたりの方を振り向いたら凄く変な顔をしていた。
眉毛の間がウネウネしている。
――あれ? どうかしたの?
『何で『筋肉交信』じゃないんだ?』
「そうだね。ブランの息子なんだからてっきり――それにさっきの術。メモが吸い込まれて消えたけど、足場を作る術じゃなかったのかい?」
ふたりの言葉を聞いて、僕も思わず驚いてしまった。
『いやいやいや。『筋肉交信』が僕にできる訳ないでしょ? もう少し常識的に考えてよ。さっき使ったのは『ポケット』と『サーチ』。僕のスキルだよ。それと――『ポケット』の使い方はこっちの方が正しいんだからね』
――何が正しいのかは良く分かんないけど。
辛うじてその言葉だけは飲み込んだ。多分話がややこしくなる。
『もちろん、『筋肉交信』は普通なら『パワーラプトル』以外使えない術だけどな。ただ、あのブランの息子ならもしかしたら――と思ったんだよ。――まさか、俺達の想像を超えてくるとは思わなかったがな』
「確かに。でも――よく考えたら、あのブランの息子なんだから、これぐらい当たり前なのかもしれないけどね」
――何だかさっきから酷い言われようだ。
だけど――
冷静に父竜の事を思い出してみると、思わず頷きそうになってしまう自分が居る。
いや、僕は「普通」だけど、父竜は――
村の筋肉仲間と一緒に焼肉と称したパーティを開き、筋肉談義に花を咲かせる。
そんな村での出来事を思い出す程に、頷きそうになってしまうのだ。危ない危ない。
『――あの時も突然だったな』
――僕が一竜葛藤している間にも、話は進んでいた様だ。
「そうそう。突然『内なる声』が聞こえたとか言い出した時は――さすがにちょっと驚いてしまったね」
『しかも――そのまま一歩も動かずに全身を震わせて――俺は驚きを通り越して怖かったな。後から『筋肉交信』という新術を開発したと聞いて、理解はできたけどな。理解は』
――ん?
今、バイスさんはさらっと言ってたけど、父竜って新術を開発したの?
え? もしかして村の仲間達に「覚醒者」って呼ばれていたのも、そういう意味だったの?
――何だか軽く頭痛がする。
今日は色々有りすぎて頭が疲れてきたのかもしれない。
そろそろ糖分を摂取しないといけないんだけど――いつまで経ってもおやつは出てこないし。
僕は溜息を吐くと、いつ終わるともないふたりの思い出話に耳を傾けた。




