126.諦めない
今回短めです。
――運命とは。
本当に変えることができるものなのだろうか。
諦めかけていたその頃の私に――その出会いは訪れた。
知っているはずなのに知らない。
居るはずがないのにそこに居て。
あるはずのない喜びと共に。
あるはずの悲しみを打ち消して。
力のない私には。
力をなくした私には。
きっと貴方が――唯一の希望。
私にできるのは。
ただ――祈ることだけ。
――――――
『いち、にぃ、さん、しぃ、ごっ!』
南門を出て左。外壁沿いに500mほど走る。
そこが最近の僕の訓練場所だ。
門から遠すぎず近すぎず。
通行人を巻き込む恐れはなく。
魔物に襲われる恐れもなく。
壁沿いに走ることも、壁を使って跳ぶこともできる。
集中して訓練できる絶好の場所――だったんだけど。
――ちらっ。
居る。
――ちらちらっ。
居る居る。
――じーっ。
居る――居る居る居る居る居る居る――
うん。何度見ても消えないし、僕に何か用事でもあるのかな?
『――ねぇ。僕に何か用?』
『ポケット』を使った跳躍から、その竜の目の前に着地する。
その竜は少し驚いた顔をした後――その言葉を口にした。
『その術――俺にも教えてくれないか?』
――――――
年齢はラズ兄ちゃんよりも年上。
どちらかというと、父竜とか母竜の同世代に見える。
クラスは――『エルダーラプトル』。
成竜になって以降、進化していないみたいだ。
『それで、どうやったらさっきの術を使えるんだ?』
――何度も無理って言ったんだけど。
この竜は、僕の話を全く聞いてくれない。
『だ・か・ら。この謎スキル。何で使えるか僕にも分からないんだよ』
あの日ユニィと契約してから、進化して使えるようになったんだけど――
結局何でこのスキルが使えるかは、未だにわからない。
ただ一つ言えるのは――
『――誰か人族と契約したら、使える様になるかもしれないよ?』
そう。
無いとは思うんだけど、もしかしたら――ということもある。
『そいつは無理だ。もう――契約者が居る』
えー。
それなら僕の所に聞きになんて来ないで、その契約者と一緒に訓練したり、調べものしたりした方が良いんじゃないの?
サギリみたいなのはちょっとやり過ぎかもしれないけど。
――表情から僕の考えていることが伝わったのだと思う。
その竜は少しだけ眉間を寄せると言った。
『忙しい奴なんだよ。あいつは』
『――何が忙しいのか知らないけど、そんなに忙しいんなら手伝ってきたら?』
僕は首を傾けながら、思ったことを素直に言った。
手伝った方が早く終わって良いはず――だよね?
それに――
『まぁ、そうなんだけど――な』
――正直、この竜のことはどうでも良いから、そろそろ僕も訓練を再開したいんだけど。
早く諦めてくれないかなぁ。




