13.お約束
僕は目の前の黒い穴を見つめる。
信じられない気持ちと、当然という気持ち。
これは明らかにスキル――リトルゼノラプトルの固有能力によるもの――だと思う。
だって、ユニークスキルを使った時と似たような感覚があったから。
試しに、スキルの停止を念じてみると、黒い穴が消える。
つまり、『キーワード』は――
『ポケット』
ビンゴ! また目の前に黒い穴が開く。
うんうん。ところでビンゴってなんだっけ。うんうん。
「ねぇリーフェ。その黒いの何?」
僕が独りでコクコク頷いていると、ユニィが尋ねてくる。
ふふふ。聞いて驚いてね。ユニィ。
『ポケット。僕のスキルだよ』
「ポケット?」
ユニィにはピンと来ていないようだ。むむむ。
『ポケットだから、物を入れられるんだよ。多分』
まぁ、色々試してみないと分からないけど、多分そうだと思う。多分。
「ふーん。便利そうだね! えい!」
そうでしょそうでしょ――って、何してんのユニィ!
油断していた僕の目の前で、ユニィが持っていた物を黒い穴に入れていた。
まだ検証もしていないのに。取り出せなかったらどうするつもりなの!?
――――――
『出ろでろデロデロ』
って具合に念じたら、中のものはすぐに出てきたんだけど――これって代金の銀貨じゃん!
まあそう言う事で、現在僕はユニィをお説教中です。くどくど。
何だか、目を毛刈り直後の裸羊みたいに丸くして「なぜ怒られているか分からない」という感情が伝わってきたので――『もしも出てこなかったら弁償だったんだよ? お手伝い30回追加だよ』と言ったら少ししおらしくなりました。はぁ。
『――もう帰ろう?』
何だか、僕も疲れちゃった。
帰ってスキルの検証もしてみたいし、また何かが起こる前に帰った方が良さそうだよね。
代金はとりあえず包みごと皮袋に放り込んで、ユニィを背中に跨らせて。ツノうさおばさんの待つ隣村に走る。
おうちに帰るまでがおつかい。魔物が出るかもしれないので決して油断はしない。
周囲を見回しながら。けれども最高速でひた走る。
黒い岩の分かれ道は右に曲がって、真っ直ぐだったよね。
はいっ。分かれ道は右! っと。
何だか途中でユニィが言いかけたけど、言い訳は帰ってから聞くんだからね!
15分ほど走った後。
――僕達の目の前には、十字路がありました。
あれあれ? こんなところ無かったよね?
――うーん。
なんでこうなったか分からないけど、そういえば僕もよく迷子になるんだった。
ユニィのことは言えないみたい。
多分黒い岩の分かれ道の所だよね。そこしか分かれ道はなかったし。
引き返そう――かな。
――――――
「あれ? 思ったよりも時間がかかったわねぇ。どうかしたのかい?」
いえ。
何も聞かないでください。
ユニィと僕は、目で訴える。
「ま、まぁ。何があったかは知らないけど、初めてだからしょうがないさね。次は気をつけるんだよ」
何かを察したツノうさおばさんがフォローしてくれた。
ありがとう。ツノうさおばさん。
気を取り直し、ユニィが僕の首に掛けた皮袋から代金を取り出して、ツノうさおばさんに渡す。
ちょうど銀貨3枚だ。
うん。これで1回目のお手伝いは終わり。あと49回。あっという間に終わりそうだね。
僕達はそのまま村の門を抜け、ユニィの村へと走った。
――そういえば、見張りのおじさんが居なかったね。
サボってるのかな?
――――――
「あー。こいつはマズイな」
そう呟くと思わず溜め息を吐く。
いや、今だからまだ良かったと言うべきなのか?
何気なく聞いた質問だったが、その返答には思わず耳を疑ってしまった。
何かの見間違いじゃないかと思って、自分の目で確かめに来たんだが……
「ギィギァ」
木々の開けた場所に、ゴブリンがいる。
しかも、1匹2匹ではない。見える限りでも10匹以上の数である。
『ゴブリンを1匹見たら10匹は居ると思え』
それは冒険者界隈では有名な格言である。
とは言え、流石に20匹見たというのは多すぎだと思っていた。
だが――
「こいつは本当に100匹以上居るのかもしれんな」
溜め息しか出ない。
のんびりするために田舎に引っ込んだっていうのに、何故こんなことになるんだか。
「あー。あいつらを呼んで片付けさせるか」
俺は後輩達の顔を思い浮かべながら、誰を呼べば楽ができるか考えていた。
(追記)
わかってる人には蛇足ですが、一応補足。
分かれ道は以下のような感じでした。
なんで迷うんだというところですが、子供だから仕方ないということで、大目に見てあげて下さい。
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├→ニルツ
↓
クオルツ
(※ 上記の図の上=北ではありません。左下辺りが北です)




