122.本当の気持ち
「おいマーロウ。何だか楽しそうだな」
『そうか?』
相棒の言葉に惚けてみせる。
まぁ、感情は筒抜けなんだがな。
「見ればわかる。それより――何か分かったのか?」
そう言うと、相棒は俺の手元を覗き込んできた。
――おいおい。配慮という言葉を知らないのか?
いつまで経っても嫁の来手がないのはその辺りじゃないのか?
『そうじゃねぇよ。親友からの手紙だ。金を貯めて『鑑定』して貰うらしい』
「親友と言うと――リーフェスト君だな。そうか、ようやく『鑑定』を受ける気になったのか。彼の術は明らかに特殊だったし、結果が気になるところだな――ああ。それで楽しそうなのか」
『まぁそういうことだ』
リーフェが鑑定を受けるのは、1年以上は先になるようだ。
それでも――
以前から謎であったリーフェのスキル。待ちさえすれば、その解明の糸口が見えてくるのだ。
これが楽しくない訳がない。
それに――
『他には、黄の遺跡という場所で目が痛くなったらしい。どうやらその遺跡では、モテたいという気持ちが強いほど、周囲の黄金色に目を奪われるみたいなんだが――』
俺は思わず口角を上げる。
『そんな訳ないのにな』
――まったく。何を勘違いしているんだか。相変わらず面白い奴だ。
相棒が「どういう意味だ?」とか言っている気がするが――聞こえなかった振りをした。
――――――
――イライラする。
相変わらずリーフェには、考えていることが全く伝わらない。
こういう時、マーロウがいれば上手くリーフェを誘導してくれるんだけど。
今日だってそう。
本当に言いたかったのは、諦めるとか諦めないとかじゃなくて。
『リーフェは本当はモテたいとは思っていない』
単純に。そう単純にそれだけのことなのに。
昔から――リーフェの『モテたい』という発言は周りに流されているだけで、本当にモテようとしていた試しなんかない。
確かに、黄の遺跡でのリーフェは落ち着いてなくて、いつもの二割増しぐらいで奇行が見られたけど――どちらかというと、周りの黄金色から遠ざかろうとしていたように見えた。
顔の四角い――ええと、ゴダールさんだったっけ?
そのゴダールさんが言っていた「モテたい気持ちが強いほど、周りの黄金色に目移りして落ち着かない」という話とリーフェの行動は、似ているようで根本のところでは正反対だ。
何故か本人は、その違いに気付いていないみたいだけど。
――私が指摘しようとしても、最後まで話を聞かないし。
そこまで考えると、私は深く息を吸う――イライラを落ち着かせる。
何はともあれ。
黄の遺跡でリーフェが落ち着きを失うのは事実。
当面――黄の遺跡行きの時は、私一竜で対応することになりそうね。
――――――
「――『鑑定』かぁ」
思わず出てきた声とため息。
その重さに自分でも驚く。
今日リーフェが提案してきたこと。
西都ウィスディンでの『鑑定』。
もちろん『鑑定』の対象は、私とリーフェが持つ正体不明のスキルだ。
ひとまずはお金を理由に先延ばしにしたけれど、お金はいつか貯まる。
リーフェは『鑑定』に希望を抱いているみたいだけど――
私は。正直言って、それを知るのが――怖い。
――今まで『リンケージ』が発動した場面。
サギリとの契約時に、解けゆくリーフェとの絆を繋ぎ止めた時。
シードルさん達との壮行会で、シードルさんとロゼさんの絆を少しだけ修復した時。
これらの時の効果から考えると、このスキルは「絆」に関連したスキルのように思える。
だけど、このスキルの事を考えていると――私は不安に襲われる。
何故かは分からない。
初めは気のせいだと思ってた。そして、気付いた後も気にしないことにした。
だけどその不安は消えることは無くて――
だからできるだけ考えないようにしていたのだけれど。
「いつまでも逃げてはいられないよね」
敢えて口にして、自らを奮い立たせる。
まだまだお金が貯まるまでは時間が掛かるけど。
『リンケージ』の術。正体不明の謎スキル。
それにしっかりと向き合う覚悟を決めた。
次話から第5エピソード。
5章に向けて、少しずつ話の流れが加速します(予定)。




